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幸せに足る一言。煉獄さんが見た夢の意味

鬼滅の刃の映画を観てきた。

ジャンプで連載を追っていたので原作は全て読了済み。

ストーリーは全部知っているけど、改めて映画を観て一つ気になったことがあった。

それは煉獄さんの見た夢の内容について。

話が分かりやすいように整理すると、今回の敵役の一人、下弦の壱厭夢ーー彼は自身の血鬼術で相手に夢を見せることができる。見せる夢の内容は幸福な夢も絶望的な悪夢も自由自在だけど、劇中ではまず最初に幸福な夢を見せている。

理由は、幸せな夢の方が目覚めたいと思わないから。炭二郎は持ち前の精神力と禰豆子の協力のお陰で術を破ったものの、幸せな夢を自ら捨てて辛い現実に向かうなんてそう簡単にできることじゃない。

と、そこで気になるのが、冒頭に触れた煉獄さんの夢の内容。

要約すると、夢の内容は二つ。

一つ目は、現れた鬼を瞬殺し、炭二郎たちに「煉獄の兄貴のようになりたい」と慕われる夢。

もう一つが、元柱の父に煉獄さんが柱になったことを報告するが「どうでもいい」と一蹴され、弟と静かに話す夢。

一つ目はわかる。鬼を倒すという目的に沿っているし、継子(弟子)に誘った少年に慕われれば悪い気はしないだろう。

けれど、問題は二つ目の夢。

え、これ幸せな夢?

炭二郎の夢は分かりやすくて、無惨に殺害された家族が今も生きていて一緒に暮らしているというもの。

無惨さえいなければあり得たはずの未来で、だからこそ、それを振り払うのが炭二郎にとってはどれほど辛かったか。鬼狩りになることもなく、穏やかな日常を暮らせていたのなら、それは確かに幸福だったに違いない。

一方の煉獄さんの夢は、どこまでも現実に基づいている。夢なのにifの要素が全くないのだ。

厭夢があえて辛い現実を見せた?そう考えることもできる。けれど、厭夢は本当に周りくどい方法で炭二郎たちを倒そうとしていた。そもそも柱が絶望的な現実を見せたところで屈しないことは知っているだろう。

だとしたら、あれこそが煉獄さんにとっては幸福な夢だったいうことになる。

なら、どうしてあの夢は幸福と言えるんだろうか。

映画より少し先の話をすると、あの後炭二郎は煉獄さんに言われた通り彼の生家を訪れ、煉獄さんの父、槇寿郎と出会う。

槇寿郎は夢の中でそうであったように、酷く冷たい態度で煉獄さんの死を吐き捨てる。

たいした才能も無いのに剣士などなるからだ
だから死ぬんだ!!
くだらない…愚かな息子だ杏寿郎は!!

これには炭二郎もブチギレて大喧嘩し、頭突きまでぶちかます。和解なんて無理かと思っていたら、後日槇寿郎から炭二郎の元に謝罪の手紙が届く。

杏寿郎のために泣いてくれてありがとう。
この四ヶ月、千寿郎とも手紙のやり取りをしてくれていたそうだね。
あの子も随分元気になった。
初対面であの様な事になってしまい恥ずかしく思う。
自分の無能さに打ちのめされていた時、畳かけるように最愛の妻が病死した。
それから酒に溺れ、うずくまり続けた私はとんでもない大馬鹿ものだ。

杏寿郎は、私などとは違い素晴らしい息子だった。
私が教えることを放棄した後でも

炎の呼吸の指南書を読み込み鍛錬をして柱となった。
たった3巻しかない本で…
瑠火の…母親の血が濃いのだろう。
杏寿郎も千寿郎も立派な子だ

それまでとは打って変わって、とても真摯な内容になっている。

そもそも映画でも描かれたように、元々は槇寿郎も心優しい人物だった。(「美味い!」と叫ぶ奇行がない分、煉獄さん以上にまともに思える)

それが、自分を無能だと思わざるを得ないようなことがあり、続くように妻が病死。打ちのめされた槇寿郎は酒浸りの生活を送るようになる。

大切なものを失う辛さを知った槇寿郎にとって、死ぬことこそ最も愚かな行い。だからこそ、煉獄さんやその弟の千寿郎には常に死の危険がつきまとう鬼殺隊に入ったり、さらには柱になったりなんてことはして欲しくなかったんだろう。

煉獄さんが、父の発言の裏にそんな意図を汲み取っていたのなら。あの夢の意味は百八十度反転する。

尊敬する父が「生きていてほしい」と願っている。それは、きっと優しさ以外の何物でもない。

どれだけ分かりやすい幸せで象られた夢よりも、父のぶっきらぼうな一言が、煉獄さんにとっては十分すぎるくらいに幸福だったんだろう。



……残念ながら入手できなかったけど、煉獄零巻にはそこら辺詳しく書いてあるのかなあ。

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