漢方は食前?
ある施設の職員の方から、漢方は食前30分でなければいけないのですかというご質問のメッセージを戴きました。職員の中には、食前30分と指示されている以上、それを過ぎてしまったりそれ以前に飲ませたりすることはダメだという方もいるのだそうです。そこで私は以下のようにお答えしました。
ああそれは全く気にしなくて良いです。漢方が食前というのは、エビデンスも無いし古典的にも言われていない話です。言ってみれば都市伝説みたいなものです。
だってそれなら嚥下障害のある人はどうするんですか?私は嚥下障害のある人には、漢方はともかくその人がどうにか食べられるものに混ぜて飲ませろと言っています。ある施設で色々試したところ、抑肝散はオレンジゼリーと相性が良いそうです。だからそうしたソフト食に混ぜて服用させるわけです。半夏厚朴湯はあまりこれといった味が無く、紫蘇の香りがするだけですので、食事に混ぜてしまっても構いません。
漢方薬で唯一古典に食前服用の指示があるのは風邪薬の桂枝湯のみです。桂枝湯は傷寒論という古典に、まず薬を飲み、それから熱い粥を啜り、その後掛け物をして横になれ、じんわりと汗をかいたら治る、と書かれています。漢方が食前というのは、もしかするとそこから出てきた話かもしれませんが、他の漢方薬で食前という指示が書かれているものはありません。また食前・食後で利き目が違うというエビデンスもありません。従って、食前どーたらを気にする必要は無いのです。
そうしたらその方から、「ツムラの手帳にも食前とありますが?」と追加質問を戴いたので、私はこう答えました。
ツムラの手帳は全く当てになりません。漢方エキスが保険適応されたのは昭和36年です。その時から、漢方エキスに関する適応症などを取り決めた法律はいくつか有害事象が加わっただけで基本的に変更されていません。それには政治的事情があるのですがそれは省略して、だからあれは昭和36年の時代の医学薬学の世界で決められたままなのです。エビデンスなどという言葉すら無かった時代のものです。
と言うわけで、皆さんのご参考になれば幸いです。