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だれのための支援なのか | 第6回内講(ゲスト:災害支援ネットワークIwaki代表の馬目一浩さん)
10月23日、内郷公民館にて第6回内講を開催しました。今回ゲストにお呼びしたのは、災害支援ネットワークIwakiの代表を務める馬目一浩さん。内郷御厩町にある阿弥陀寺の副住職の傍、台風13号の被災地で開かれている傾聴サロン「ふくみちゃんカフェ」をはじめ、今年1月に発生した能登半島地震、7月に起きた豪雨被害にあった山形県、9月の能登半島豪雨などの全国の被災地に出向き災害支援を精力的に行っています。
今回は、災害ボランティアの最前線で活躍されている馬目さんから、災害支援のリアルを語っていただき、改めて防災について学びました。
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災害ボランティアの原点
まずはじめにお話しいただいたのは、馬目さんが僧侶になるまでの生い立ちについて。東京で生まれ育ち3歳で長野県へ移住。県内トップの高校に進学するものの、周囲との差に挫折し、それをきっかけに長い間、悶々とする日々を過ごしていたそう。転機となったのは、25歳の時。知り合いの寺の住職にお坊さんになったらどうだと勧められ、「自分のため、人のためになる」という言葉に惹かれ、お寺の道に進むことを決意。京都で修業を積み僧侶となり、阿弥陀寺の次女である奥様と出会い、いわき市にやってきました。
そして、2011年3月11日、現在の活動の原点となった東日本大震災が発生。
「震災当時は寺でやることに追われていて、なにかしたいという気持ちはあったのになにもできなかった。お坊さんってなんだろうと自問自答を繰り返し、失意と挫折の思いに駆られていました」と当時の思いを語る馬目さんの表情に悔しさがにじみ出ます。
震災から1ヶ月後、少しでも力になりたいとボランティアセンターに通い始めます。徐々にお坊さんのボランティア仲間が増えていき、市内の仮設住宅で行う訪問・傾聴サロン「浜○かふぇ」の活動をスタート。いわき市社会福祉協議会や楢葉町役場と連帯し、約300ヵ所で開催しました。
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この活動中、ある子どもとの出会いが馬目さんを次のステップへと突き動かします。「ある仮設住宅で仲良くなった女の子がいたんです。ある日、雪が積もったので、外で雪遊びしよう!と誘ったら、雪には放射線が含まれているからダメだよと怒られたんです」。その言葉に、私たちメンバーも原発事故当時、放射線に怯えて過ごした不安な日々が甦ります。
馬目さんは女の子を雪遊びに誘ったことをひどく後悔し、長引く仮設住宅での生活や災害によるPTSDなど、子どもたちが被災後どれだけストレスを抱えているのかを思い知ったのです。そこで、福島県在住の子どもたちがのびのびと自由に過ごせるようにと「ふくしまっ子Smileプロジェクト」を実施し、野外活動や社会見学を行いました。
震災を機に生まれた新たな取り組み
災害ボランティアを精力的に行うなかで、馬目さんはさらなる課題に着目。それは、震災が起きてから被災者や被災地を支援するまでのフロー。震災が発生すると、行政から被災地の情報は入るものの、民間の支援団体は情報の共有や連帯ができず、支援活動にムラができてしまいました。さらに、復興期になるとせっかく積み上げた連帯もなくり、次に災害が起こったときには振り出しに戻ってしまうのです。
2019年に発生した令和元年東日本台風ではその経験を生かし、行政、災害ボランティアセンター、民間支援団体の三者連帯が実現。それにより、被災地に支援が届きやすくなったり、フェーズにあった支援ができるなど幅広い活動ができるようになったそうです。こうして特化した中間支援組織を担う「災害支援ネットワークIwaki」が設立されました。
こうしたネットワークが整った後に、台風13号が発生。災害ボランティアセンターの運営補助や外部支援者の調整などの対応を行ったことで、適切な場所に適切な支援が行き届きました。現在、私たちが水害の証言を集めるために伺っている傾聴サロン「ふくみちゃんカフェ」も、こうした大きな2つの災害を経験したからこそ生まれた場です。振り返ってみると、災害に強いいわきへと着実に歩みを進めているように感じます。
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地域主体の復興支援を
しかし、支援といってもむやみやたらに支援すればいいということではないと馬目さんは語ります。
「ある床上浸水した家では、外部の支援団体が浸水していない天井や壁まではがしてしまうケースや、被災後1ヶ月経って近所のスーパーも再開しているのに炊き出しを行う支援団体がいたり。その支援が本当に必要なのか、復興の足かせになっていないか考える必要があります。大切なことは、自己満足な支援ではなく、あくまで主役は被災者・被災地だということ。最後は支援団体に頼らず、地域の人たちが自らの力で復興していかないといけないんです」
地域に住む人たちが主体となることで、地域が復興する。考えてみると、まさに私たち内郷まちづくり市民会議の活動そのものなのではないでしょうか。被災した方々の声を聞き、まち歩きで被災地・被災者を訪ね、皆で自分たちの住むまちの防災を考える。これまで積み上げてきた活動ひとつひとつが、少しずつ内郷を復興へと導いているのだと、今回の講義を通して改めて認識することができました。
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終始、馬目さんの講義に没頭し、さまざまな気づきをいただく場となりました。馬目さん、お忙しいところお話いただきありがとうございました。2024年も残すところわずか。今年を悔いなく締めくくれるよう、私たち内郷まちづくり市民会議も駆け抜けていきたいと思います!