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『喫茶ルオー』にて
私が一番好きな画家は
『20世紀で最も情熱的な前衛宗教画家』とも称される
ジョルジュ・ルオー。
ルオーの描くピエロやキリストの
瞼を閉じて深く自己に没入する様な表情が好きだ。
その表情を見る度に
私は、私の全てを見透かされている様な気持ちになる。
そして、自分を振り返る不思議な時間が生まれる。
辛いことや悲しいことがあった時、私はルオーの絵画を観に行く。
ある日、テレビで『喫茶ルオー』というお店が
東大の正門前にある事を知る。
喫茶店…しかも店名はルオー…!
私の“大好きなモノ”の掛け合わせ。
翌日。私は『喫茶ルオー』の店の前に立っていた。
格子のガラス窓、木の看板、観葉植物のグリーンとの絶妙なバランス。
期待は膨らむ。
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ゆっくりと扉を開け店内へ。
思ったよりも奥行きが広く、漆喰の壁に流れてきた時の長さを感じる。
木彫りのテーブルに囲まれた居心地の良い空間。
若い人や年配の方など数名のお客さんがいる。
皆一様にカレーを食べており、香りが充満していた。
優しそうな年配の女性が
「2階の席もありますのでお好きなところへどうぞ」と案内をしてくれた。
私は2階へと進んでいく。
ラッキーなことに2階にはお客さんがいない。
数枚写真を撮らせていただいた。
窓の外には東大の正門が見える。
店内にはいくつもの絵画が飾ってある。
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↑この席は司馬遼太郎の指定席だったそう
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↑椅子の背もたれにコーヒーカップのデザイン
お店の前身は画家の森田賢氏が1952年、東大赤門にほど近い場所で森田氏がコレクションしていた絵画を鑑賞しながら、コーヒーが楽しめる画廊喫茶だった。店の名前にもなっているフランスが生んだ孤高の画家、ジョルジュ・ルオーの作品を筆頭に多くの芸術品を鑑賞することができた。1979年に店名を喫茶ルオーに改め現在の形に。
窓側の席に座る。
1950年代の画廊喫茶時代は
東大の学生や教官ばかりでなく芸術家、劇団員、文学関係者などが集う
サロン的役割をも果たしていたという。
隣の席には演劇論を戦わせる役者達。
後ろの席には静かに絵画を楽しむ芸術家。
私の脳内は妄想タイムトラベル状態。
「失礼します」
その声で現実の世界に引き戻される。
先ほどの年配の女性がお水を持ってきてくれた。
私もセイロン風カレーライスを注文。
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ビジュアルは昭和の懐かしいカレー。
カレーも好きで色々食べているが
個人的には個性と刺激を求めるタイプなので
欧風カレーよりもスパイスカレーが好き。
なので、あまり期待をせずに口に運ぶ。
「ん……!?え……!?美味しい……!」
思わず独り言。リアル孤独のグルメ。
じんわりとスパイスを感じられる個性的なカレー。
いい意味で嬉しい裏切り。
食後にセットのセミコーヒーをにいただく。
コーヒーは言わずもがな美味しい。
これで1000円なり。至高の幸せ。
いい喫茶店がある街に
私は文化的な薫りを感じる。
だから私はその文化の薫りに触れたくて
様々な街の喫茶店に行くのかもしれない。