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震災から10年 【ROOM -いわきFC社長・大倉智の論説】

目の前にある進行形の現実。

東日本大震災からの発生から10年。お亡くなりになられた方、そしてご遺族の皆様方に、あらためて心から哀悼の意を表します。

正直「10年」と言われてもピンとこない。そして強く思うのが「震災から10年が経ったこの日を、イベントのように消費してはいけない」ということだ。

私は震災を体感はしたが、経験はしていない。

あの時、私は湘南ベルマーレの強化部長で、横浜駅にいた。ベルマーレの被災地支援の一環で小名浜に物資を運んだりしたことはあったが、当時したことはそれぐらいだ。

当時低迷していたベルマーレを10年ぶりにJ1昇格に導き、昇降格を繰り返すも、スタッフ一丸となってベルマーレ復活の礎を築いていた。本当に充実感があった。

しかしその一方で、こんな想いもあった。

Jリーグの本来の存在意義は、地域が抱える課題をスポーツで解決することではないか。プロサッカー選手の輩出ではなく、人材育成ではないか。勝利よりも、大切なものがあるのではないか。スポーツの力をどうにか、社会に還元できないものか。

そんな気持ちを胸に抱いていた時に、現在の親会社である株式会社ドームの安田秀一社長と20数年ぶりに再会。「スポーツの力で被災地を元気にしたい」という思いに共感した。思い切ってベルマーレを飛び出し、いわきスポーツクラブの社長としてここに来たのは2015年のことだ。

そのため、いわきに来た当初、震災について知らないこと、わからないことも多かった。

そんな私が、震災が残した深い爪痕をよりリアルに感じるようになったきっかけ。それが昨年、ホームタウンをいわき市に双葉郡8町村を加えた9市町村に拡大したことだった。

Jヴィレッジや双葉郡の役所、会社などにおじゃまする機会が増えたことで、被災地のリアルな実情を目の当たりにした。

もちろん、この10年で復興は着実に進んでいる。JR常磐線が全線再開通し、一部地域では避難指示が解除。サッカーではJヴィレッジが全面再開され、いわきFCはJFLのホームゲーム2試合を、Jヴィレッジスタジアムで戦った。

しかしその反面、厳しい事実も横たわっている。

例えばJヴィレッジから北に上がった双葉町、大熊町、浪江町といった地域の避難指示は依然として一部しか解除されておらず、今もなお、双葉郡の人口約6万5千人のうち多くの方が戻られていない。

つまり被災地の方々にとって、東日本大震災は「目の前にある進行形の現実」なのである。

「10年だから頑張ります」ではない。

そのことを強く思い知らされたのが、2月13日の福島県沖地震だ。

あの時、私はいわきの自宅にいた。本当に恐ろしかった。住んでいる建物が倒壊するのではないか、という恐怖でひたすら身をこわばらせるだけ。何もできなかった。

心底驚いたのが、福島県沖地震が東日本大震災の余震と見られていること。本当に衝撃的な見解だった。

そう。まだ何も終わっていないのだ。

もちろんインフラなど、復旧はそれなりに進んだ。でも、被災地で暮らす人達の心中はどうだろう。

福島県沖地震によって、多くの方の心に10年前の恐怖が心によみがえったと聞く。当然だろう。いわき市や双葉郡、そして東北の人達は厳しい現実と10年間戦い、それは今も続いている。

そう考えたら、今年の3月11日を「節目」なんて言えるわけがない。

やっと10年。もう10年。まだ10年。年月のとらえ方はさまざまだ。確かに10年という数字によって、マスコミを含めて「忘れてはいけない」という空気が作られるなら、それは悪いともいえない。でも震災は10年だから思い出すものでもなく「10年だから頑張ります」ということではない。

ましてや「今年は震災から10年の節目。だからJリーグに上がります」なんて文脈で、いわきFCの今を語ることだけはしたくない。

今までやってきたことを一つ一つ、淡々と続けていく。

いわき市、そして双葉郡の復興から成長に寄与したい。

いわきスポーツクラブは、そんな思いから生まれた会社だ。われわれはその思いに忠実に、今までやってきたことをこれからも淡々と続けていく。

例えばわれわれは、福島県には震災と原発事故による直接的被害の他に、多くの問題が横たわっていることを知っている。

2019年度、福島県の肥満傾向にある子どもの割合は5~17歳の全年齢で全国平均を上回り、13歳では全国でワーストとなった。全国体力テスト・運動能力テストの結果も、福島県内の子どもの平均は多くの年代で平均を下回り、中でも浜通り地域は点数が顕著に低い。

健康課題は子どもだけではない。

中高年のメタボリック症候群の割合は全国ワースト4位である。そして浜通り地域は、2型糖尿病など成人病の医療受診率が特に高い。

それらの問題に対し、できることを一つ一つやっていくしかない。

昨年は新型コロナウィルス感染拡大の影響であまり進められなかった健康増進事業を、行政と連携し、より積極的に推し進めていきたい。こういった地域の課題を解決することは、スポーツクラブの使命だ。

そして、今年のいわきFC。

われわれは「スポーツの力」を信じている。スポーツは人を感動させる。ドキドキワクワクさせ、感情を動かす。

だからこそ「魂の息吹くフットボール」という商品を、もっともっといいコンテンツにする。そして心揺さぶる熱い戦いを見せ、いわき市と双葉郡の皆様方を少しでも元気にする。

できるのは、ほんの些細なことかもしれない。だが、これからも復興の一助となるべく、皆様とともに戦っていく。

▼プロフィール
おおくら・さとし

1969 年、神奈川県川崎市出身。東京・暁星高で全国高校選手権に出場、早稲田大で全日本大学選手権優勝。日立製作所(柏レイソル)、ジュビロ磐田、ブランメル仙台、米国ジャクソンビルでプレーし、1998 年に現役引退。引退後はスペインのヨハン・クライフ国際大学でスポーツマーケティングを学び、セレッソ大阪でチーム統括ディレクター、湘南ベルマーレで社長を務めた。2015 年 12 月、株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役就任。

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