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I.G.U.P 検討委員会レポートvol.15 観客席から考える理想のスタジアム

かなりご無沙汰になってしまいましたが、久々のI.G.U.Pレポートです。2024年の春に「4つのビジョン」が策定されてから、2か月に1度のほどのペースになっているものの、わたしたちは、継続して新スタジアムに関する議論を続けています。

このnoteでは10回目の分科会までをレポートしています。11~14回目は、ビジョンのさらなる言語化やビジョンブックに関する確認作業という地味な展開が続いたため、詳細なレポートは掲載していませんでした。

ようやくここにきて、年の瀬の12月5日に行われた15回目の分科会で、座長の上林功先生が開発した「キット」を活用した観客席ワークショップが行われ、かなり白熱した回となりました。久しぶりのレポートとなりますが改めてこちらで詳細を振り返っていきたいと思います。

キットを使った白熱した議論

第15回分科会で行われたのは観客席ワークショップ。I.G.U.Pの座長、上林功先生が所属する大学の学生たちと手づくり&独自に制作した「観客席ワンスパンキット」を使って、具体的にスタジアムのスタンドのワンスパンを構想するというものです。観客席の階数を考えたり、スタンドの余白にどのような機能を盛り込むかなどを具体的に考えることができます。

観客席をワンスパンごとに分割した観客席キット
それぞれ個性豊かで実用的な観客席を考えました

このキットは、観客席の柱と柱の間の「1スパン」ごとに区切られており、それを重ねていくことでスタンドの機能を考えていくもの。さまざまなタイプのキットがあり、それをどのように組み合わせていくかで、体験や楽しみ方が大きく変わってきます。

キットには、具体的なシーンを思い浮かべて考えるために「アバター」が用意されています。子連れの観客、一般のサポーター、車椅子の方など複数のアバターがあり、そのアバターの属性を意識して観客席を構想することが求められます。そのうえで、「I.G.U.Pが打ち出したスタジアム4つのビジョンの「どれか」を満たすべし」という条件が上林先生から示されました。

席数や傾斜、縦横比などキットの各要素は、実際のスタジアムに準じたものになっていて、理論上、このキットを組み合わせて楕円形にしていくと、実際のスタジアムのプロトタイプができあがるということになります。完成系をイメージしながら、対話をしながらスタジアムをリアルに構想できるというキットの力を借り、これまでになく白熱した検討会になりました。

複数あるアバターを活用しながらユーザー目線で考えます
アバターの目線に立つことで、より現実に即した形で構想できるようになります

キットを組み合わせて観客席を「妄想」

委員は2人ペアで6つのチームに分かれ、「高さ3段階まで」という条件付きで、観客席キットを組み立てていきます。キットは、通常の「観客席だけ」のもの、空間に余白が設られているものや、VIP席っぽいスペースなどがあるものなど複数のタイプがあり、組み合わせは自由です。

それではここから、実際に構想された観客席の実例を見ていきましょう。

菅波・福迫ペアが考えた観客席

菅波・福迫ペアは、1階部分、ピッチに最も近い席をコアサポーターの応援席にしたうえで、2階部分を障がいのある方や子どもたち向けのスペースに設定。ここを寝転んだり座ったりして観戦できる席にし、さらにその上部をVIP席として確保しました。

また、さらに最上部に、一般サポーターの応援席を乗せています。さまざまなバックボーンの観客がそれぞれ自分らしく楽しめそうですし、せり出したVIP席は見晴らしも良さそうで、収益性も高そうですね。

末永・前野ペアの観客席

末永・前野ペアは、1階部分をまず駐車場にしたうえで、最もピッチに近い部分をインクルーシブなスペースにし、2階にキッズスペースを、3階に通常席、スタンド裏にはイベントスペースを想定していました。

この「スタンド裏」のスペースは災害時にもさまざまな活用が見込める設計なっているだけでなく、子どもたちも安心して試合を見られるようなスタンドになっています。屋上が太陽光パネルになっているというのも、災害時にさまざまな使い方が想定できそうです。

金澤・北澤ペアによる観客席

金澤・北澤ペアは、1階の壁の部分を「窓」にして、スタグルを買った一般の市民も「今日サッカーの試合がある」と確認できるようなつくりにしたいと説明。ただ、窓からは試合は見えるものの、臨場感には欠ける。ならば次は実際に試合をスタンドから見よう、という気持ちになりそうです。

2階スペースは、試合がない日も、企業が入ったり、グループワークができるスペースになっていて、最上階の座席が用意されており、こちらはピッチの真上から試合を見たい人たちのための席です。

風景を思い浮かべながらプロトタイプを考案

このように、具体的な「風景」を思い浮かべながら構想できるのがこのキットの優れた点です。スタンドからピッチがどう見えそうか。スタンドの背後のスペースから、スタンドにどのように移動できそうか。アバターの視点に立つことで、よりビジョンを明確に意識した設計を構想することができます。おしゃべりしながら進められるのもいいですね。

キットは、あくまでスタンドの「一部分」を考えるものであり、全体を構想するにはもう少しキットの量が必要だと思いますが、メインスタンド中央部分がどのような設計になっているか、ホーム側のスタンドはどうか、バックスタンドはどうなっているかなど、「ある特定部分の尖ったコンセプト」を考えるには十分活用できるものだと感じました。

既存のスタジアムもキットを使って「解剖」が可能です

じつは上林先生、キット1つあたりの実際の「単価」も調査しているとのことで、実際にかかる建設費なども頭に入れながらスタジアムの構想を練ることができるようになるかもしれない、と話をされていました。構想ばかりではなく「実現性」や「採算性」も含めて構想することで、絵空事ではない、まさに「自分ごと」のスタジアム検討に役立てられそうです。

また、このキットを使うことで、既存のスタジアムをキットで再現することができ、各地のスタジアムを機能的に知ることができます。ただ夢や希望を語るだけでなく、スタジアムとはいかなるものかを学び、考え、そして手を動かして構想する。これまでにない、知的で実践的なワークショップとなりました。

手応えを語る大倉代表

スタジアム構想を通じた、市民参画の新しい形

いわきFCの大倉代表からは、正直、うまくいくかな?と半信半疑だったところがあったが、意外にも大人の皆さんが集中して、次につながる意見がかなり出てきた。今後、高校などいろんな場所に持ち込んでワークショップをやってみてもいいかもしれない、とコメントがありました。

これまでは、スタジアムへの期待や、こんな機能があったらいいなという要望を付箋に書き込んで貼り付けていくという「スタジアムボイス」の収集にあたってきましたが、さらに一歩踏み込んだ、スタジアム構想を通じた市民参画の形が、少しずつ生まれているように感じました。

では、今回のレポートはこのあたりで締めたいと思います。以上、I.G.U.P広報チームの小松理虔がレポートしました。


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