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【FM店主日記Day56】サンドウィッチは一日にしてならず

英語で生活をするにあたって、レストランなどでオーダーする、という行為があるのだけど、まあ、これは英会話の初歩とも言えるレベルであり、Can I have.... please? みたいなフレーズを使ってウェイターやらウェイトレスに伝えるわけなのだが、結構多くの注文は、そこで終わりではなく、ステーキを頼めば焼き具合を確認されるし、卵料理の場合は調理方法を聞かれるし、サラダを頼めばドレッシングの種類を聞かれたり、となかなか一筋縄では行かなかったりする。

しかし、注文方法が断トツに難しいのは、なんといってもサンドウィッチの注文である。

まずは、サンドウィッチに挟む具材を決めるわけだが、ここはさほどハードルは高くない。

例えばローストビーフとかにするとして、

Can I have a roast beef sandwich please?とかなんとかいって注文したとする。

そうすると、まずパンの種類をどうしますか?と聞かれる。サンドウィッチが看板商品のお店だとパンの種類だけでリストアップすると日が暮れるくらいあったりするし、日本で育った一般庶民的な日本人男子の場合、パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?とか言ってたくらいしかパンの種類を知らないわけであり、食べられるパンと食べられないフライパンがあるのがわかっていれば日本では常識人ぶることができるのだけど、アメリカでは好きなパン論争が頻繁に勃発するほどパンの種類はたくさんあり、はっきり言って最初は意味がわからないしどんな味がするのかとかも想像ができないし、パンの名前もうまく聞き取れないのでまずここで地獄を見るのだ。

パンの種類を選んだら次は、パンをトーストするかどうか聞かれ、そこからパンと同じくらい難易度が高いチーズをどうするか問題が勃発する。チーズも実に多種多様であり、その中から自分が選んだ具材に合うチーズがどれか、というのはこれがまた極めて難しい。写真を撮る時に気軽に「チーズ」などと言ったりするが、欧米ではそんなに軽はずみにチーズなどと口走ってはならない。どのチーズか一番好きか論争もかなりの頻度で勃発するし、あなたはどのチーズが好きなの?などと金髪のかわい子ちゃんに聞かれて、自信を持っていい感じのチーズを即答できなければ、あるいはとろけるスライスチーズなどとこともあろうかプロセスチーズのようなチーズを好きなチーズとして答えてしまった暁には、教養のない、あるいはセンスのない人間だと思われてしまい、最初はあなたに関心があったかもしれないかわい子ちゃんも瞬時に関心を失ってしまい、ため息混じりに去っていってしまうことだろう。好きなチーズを述べるだけでも人格判断されてしまうのが欧米である。答えによっては人間失格の烙印を押されてしまう可能性だって秘めている。

そして、冷や汗をかきながらようやくなんとか無難なチーズを選んだかと思ったら次は、マヨネーズ、バター、マスタードなどパンにどんな調味料を塗りたくるのか、という質問が飛んでくる。ハニーマスタードなどの変化球もここには含まれており、ここもそれなりにピンチなのであるが、それで終わりではない、ここから野菜を選ぶことになるのだが、何をどのくらい入れて欲しいのか、というリクエストもしなくては好きなサンドウィッチすら言語化できないセンスのない、仕事のできない男だと思われてしまう。

レタスやらオリーブやらタマネギやらピーマンなどから好きな野菜を選択してパンに載せてもらうわけだ。ここで調子に乗って色々と入れてしまうと味が混ざりすぎて何を食べているのかわからなくなってしまう危険性もあるし、そもそも野菜を入れすぎるとパンに収まらなくなり、計画性のない、将来の展望のない、つまり大きなプロジェクトを任せるなんてとんでもない人材だと思われてしまうことになる、そうなるとサンドウィッチどころかこれまで築き上げてきたキャリアまで台無しになってしまい、サンドウィッチの作り方すら満足に指示できない、あるいは自分という存在が確立されていないインマチュア少年ボーイだと思われてしまうリスクがここにも潜んでいる。そして野菜といえばやはりここでもドレッシングをどうするか問題が潜んでいる場合もあるし、オリーブオイルと塩とレモン汁みたいに簡単かつシャレオツにお願いすることだってできる。さあどうする?

今でこそ、サンドウィッチの注文はむしろ楽しい、というか、贅沢なことだと感じる大人の余裕を持つことができてきたし、好きなチーズを聞かれてもTPOに合わせてそれなりのチーズの名前を述べることができるアイアム国際人に成り上がった私ではあるが、サンドウィッチの注文が満足にできるようになるまでざっと20年近い修行が必要であった。滝に打たれたり、飛行機に乗り遅れたり、インドでヨガをしたり、ネパールで瞑想をしたり、オーストラリアで車生活をしたり、オリンピック会場で働いたり、などと長期間にわたり極めて過酷な修行を積んできた結果今の私があるわけであり、観光目的でアメリカを訪問した際に、気軽にサンドウィッチ屋さんに立ち寄ることは決しておすすめできない危険な行動であり、保険会社もサンドウィッチ屋さんで恥ずかしい思いをしたことに対する補償は致しかねますと明記しているくらい初心者向けではないデンジャラスな場所であることを読者諸君にはこの機会にぜひ覚えておいてもらいたい。

サンドウィッチは1日にしてならず、なのである。

フェルマータ店主 KAORU

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