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【FM店主日記Day89】面白い人が面白いことをいい、それを聞いた人はその面白いことが実際に面白かったということを認め、声を出して笑う

初対面の人と話すのはなかなか難しい。なかなか難しいけれどもなかなか楽しい時もある。

初対面なのに話が弾む相手もあれば、何度も会っているにも関わらず全く話が噛み合わない相手もいる。どちらかと言うと、初対面で話が噛み合わなかった場合、その後の人生で急に話が噛み合い始める、ということは実はあまりない。

誰かと会って話す時に、相手にどうしてもらいたいか、と言うと、自分の場合は、せっかく会って話すのだから、何か面白いことを言って相手を笑わせたいと思う。面白いことを言う、というのは一方的な攻めの作業のように思えるかもしれないけれど、片方が面白いことを言ってもう片方がそれを聞いてそれを面白いと思って笑う、というのは両者による共同作業であり、今まで生きてきた人生の中で面白いと感じたことがある程度すり合わせできてこないと両者が面白いと感じるまでには至らない。

面白い人というのは実は発言をしている人にとって面白いこと、ではなく、それを聞いた人が面白いと感じることを取捨選択してそれを絶妙のタイミングで発話できる、ということであり、実際にそのタイミングがやってきたときに満を持して面白い人が面白いことをいい、それを聞いた人はその面白いことが実際に面白かったということを認め、声を出して笑う、などのリアクションを取り、面白いことを言った人のことを面白い人だと結果思うわけである。しかし、面白いことを言った人が面白い人になるまでにはもう少しだけ長くて険しい道のりがあり、面白いことを言った人は、たまたま面白いことを言っただけなのか、はたまたこの人は面白いことを安定供給してくれる人材なのか、という部分を見極める必要があり、面白いことを安定供給してくれる人材として認知されると晴れてその人は面白い人に昇華され、発言につぐ発言が笑いを生む面白い人になれるのだ。ウケる技術、とはつまりそういうことなのだ。

面白い、と感じること、というのは実に人それぞれであり、ふとんがふっとんだ、で爆笑する橋が転げても笑う、いや、たしかに橋が転げたらそれは何かがおかしいが、箸が転げても笑うタイプの沸点の低い人もいれば、コンドルがめり込んどる、などの上質なダジャレでも一ミリも笑わない強者も存在する。そして、ドラゴンボールやワンピースなど多くの人が知っているだろう題材を使って面白いことを言ったところで、それを聞いた人がそのアニメについての知見がない場合、全く面白くない可能性も考えられる。つまり、何かの共通知識をお互いに有しているか否かという確認作業も必要となるわけなので、面白い人になるのは大変なことなのだ。

そもそもお互いを面白いと感じるためには、とにかく明るい安村などの別の意味での強者を除き、通常は同じ言語の話者である必要がある。そうなると相手が英語で話しかけてきた場合には英語で面白いことを言う必要があるわけだし、そのためにはその英語で話しかけてきた人が知っていそうなネタを捻り出す必要がある、そして今この瞬間英語のネタといえば何か、という新鮮な英語ネタみたいなものを常に日頃から仕入れては出し、ネタが古くなったりカビてしまう前にまた仕入れては出し、をしつつ、自分が面白いかどうかを評価してくれる人たちからのフィードバックを得ながら、より面白くするためにはどう工夫をすればいいのかについて精査する必要もあるのだ。つまり、面白い人になるのはとにかく大変なことである。

そして、一番やってはいけないのが、面白いとはどういうことなのかをしたり顔で説明してしまったり、面白いという概念がどういう仕組みになっているのか、などについて延々と説明したり、文字で書き記したりして、その場をツンドラ気候並みに凍り付かせることである。例えば、今日のこの文章がちょうどそれに当たるわけであり、これだけ面白いとは何かについて文字数を重ねて綴ってきたにも関わらず一ミリも面白くない内容が完成してしまう、というのはこれはもうある種の悲劇であり、悲劇とはつまりほとんど喜劇であるが故、これは実は二周くらい回って実に面白い話なのである。しかし、この面白さに気づいている面白いことに対して鋭い感性を持つ人たちはまだ今の時代には少ない、という由々しき事実に私は今日も嘆き悲しみ一人体育倉庫の片隅で体操服を着て膝を抱えて泣きじゃくりながらABEMA TVで今日の佐々木勇気八段対藤井聡太竜王の第37期竜王戦七番勝負第四局を眺めるのだった。

つまり何が言いたいかというと、文春相手に訴訟を起こしておいてしれっと取り下げてしまったダウンタウンの松本人志氏は長年お笑い業界のトップランナーとして業界を牽引してきたにも関わらず、こんなしょうもないことで失速してしまう、というのはもしかしたら彼はもう面白くないんじゃないか、ということである。その一方で、フライデー襲撃事件の後、記者会見を開いたビートたけしの動画は今見ても切れ味抜群でめちゃくちゃかっこいいし、「アナログ」という恋愛小説も最近オーディブルで聞いたのだけれど、これもなかなか面白かったし、やっぱりこの人のスケール感というのは狙って出せるものではないと思うのだ。

フェルマータ店主 KAORU


ライバル対決



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