文化人物録81(マリーナレベカ)
マリーナ・レベカ(ソプラノ歌手)
→1980年ラトビア・リガ生まれ。サンタ・チェチーリア音楽院卒。ザルツブルクの国際サマー・アカデミーとペーザロのロッシーニ・アカデミーで研鑽を積み、ヴェルディとロッシーニ、モーツァルトの第一人者として世界で高い評判を得て、2017/18シーズンではミュンヘン放送管弦楽団の最初のアーティスト・イン・レジデンス。
これまでロイヤル・オペラ・ハウス、MET、ウィーン国立歌劇場、パリ・オペラ座、ミラノ・スカラ座等、世界の主要なオペラハウスで『椿姫』のタイトルロールを務め、名実ともに現代最高のヴィオレッタの一人。2019年11月に行われたトリエステ・ヴェルディ歌劇場の『椿姫』でもヴィオレッタを演じ大きな反響を呼んだ。2020年ミラノ・スカラ座来日公演での『椿姫』でもヴィオレッタ役を予定していたが、コロナ禍により中止。
僕はまさにこのスカラ座公演のためにマリーナに話を聞いた。ソプラノ歌手としての才能にあふれ、たたずまいには華がある。まさにオペラ歌手のスター。僕とほぼ同年代で、人間的にも素晴らしい方だったので僕も聴くのが楽しみだったが・・・。ご本人も日本で歌うのが楽しみと言っていたので、コロナが直撃したのは本当に無念だったに違いない。
*スカラ座「椿姫」について(2019年)
ヴェルディのオペラ「椿姫」のヴィオレッタは2007年に初めてデビューしてから十数個のプロダクションで歌っている特別な役です。たくさん歌っていても、いまだに私が夢見ていた役です。ソプラノの大役でテクニックが必要で、感情表現がとても重要です。一歩外に出たら、死ぬまで皆さんに(役を)提供するのが大事なのです。
スカラ座のこの椿姫については、私自身涙が出てきます。このプロダクションはビデオで観たこともありますし、キャストの名前を見ていると今まで私が共演してきた方がたくさん出ています。このプロダクションはクラシカルな演出ですが、祖母が大好きでしたね。ただ歌い手の個人的な解釈も入れる余地があり、表現は自分なりにできると思います。そして、日本の聴衆はファンタスティックですね。本当に真剣に聴いてくれます。そして集中しながらも謙虚な気持ちでいてくれるので、私も心を開いて歌うことができます。
ヴィオレッタというより、私はこの椿姫という作品自体が好きなのです。世界どこでも通用する作品です。あらゆるオペラ芸術の中で、最も心に直接訴えかけられる、まっすぐ届くオペラだと思います。音楽は声が基本です。人それぞれ声は違いますが、人の心を映すものだと考えます。テクニカルな声というより、人間の動物的な点ですね。歌は言葉とか伝統とかを超越します。
重要なのは、作品に対して誠実に向き合うことです。蝶々夫人は典型的ですよね。日本文化の謙虚な姿勢が作品には現れています。ほかにカルメンはスペイン文化など、誠実に取り組めば言語や国を超えて聴衆に届くと思います。
私がイタリアで音楽を勉強しようと思ったきっかけは13歳の時。ラトビアの劇場でノルマを聴いて感動し、歌手になりたいと思いました。私は音楽院の試験も落ちて泣きましたが、その後音大に進みました。イタリアを留学先にしたのは、イタリア語を勉強したかったこと、ヴェルディ作品を勉強したかったこと、そしてイタリアの伝統文化のレベルの高さです。広い見地を養いたいと思いました。