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文化人物録60(伊藤宏樹・愛工大名電高校吹奏楽部顧問)

伊藤宏樹(愛工大名電高校吹奏楽部顧問)

→愛工大名電高校といえばイチロー選手の母校、野球の強豪校としてよく知られているが、吹奏楽部も全国トップクラスの実績を持つ。吹奏楽部の場合、全国吹奏楽コンクールの上位を目指すあまり小手先の技術に走り、生徒の音楽性や感性が置き去りにされる例をたくさん見てきたが、愛工大名電は実績を残しつつも、生徒の自主性を尊重する指導方針が高く評価されている。

そうした意味で、伊藤さんのような指導者のお話は大変示唆に富んでいた。勉強でも芸術でも、最終的には子供自身が楽しく自主的に取り組むことが極めて重要なのだ。

*愛工大名電吹奏楽部のCD(2015年)

・吹奏楽指導中に生徒とコミュニケーションを積極的に取る。「驚いたような感じ、そういうインパクトがほしいな」「おまえら、何なら驚く?」→生徒「5億円当たったら驚く」「家が突然豪邸になった」。楽しく生徒と話しながら考えさせる指導

・音楽って作る方がどうやって演奏するのがいいのか、しっかり意識しないといけない。中華料理もそうです。楽しむ感覚がないとダメです。スパルタ的な指導ではなく、頭で理解させること。大事なのはイメージ。地中海の白いビーチ、どんな場面の音楽か、低音にトライアングルが出てくる状況はどんなときか、明るいのか華やかなのか優しいのか、などです。

・CDは録音でなくあえてライブでやりました。一発勝負で高校生らしいし、その方が臨場感があると考えました。私はこうしろ、ああしろなどと生徒にはいわず、子供たちと会話することが大事だと思っています。呼び掛けて話してもらう。それは音にも現れます。対話によってブレンドされたサウンド、調和がとれた音になっていく。音が溶け合うことが大事です。

・CDを出したことによって生徒の意識がしっかりしてきました。責任感が出てきましたし、バンドを大人にしてもらった感じがします。音を世の中に配信することには大きな責任が伴いますので、子供たちもソニーミュージックなどスタッフの方々の情熱を感じたようです。メジャーレーベルからCDをだすことなんてなかなかないですから。高校生の演奏も芸術です。吹奏楽という芸術を全国に広め、面白いと思ってもらうことには大きな意味があると思っています。

・ライブ録音は大変でしたが、緊張感も臨場感もある演奏になったと思います。うちの吹奏楽部は演奏会もいつも満席になるのですが、こうしてCDになることで新たなつながりなども出てくると思います。練習にも緊張感が生まれますし、やはりCDをだすということは大変なことだと感じます。

・私はいつも子供がのびのびとする演奏、人に訴えかける演奏を目指しています。まだまだ生徒はシャイなので、もっと開けっぴろげな音楽をやりたいので、CD化は大きな成果です。生徒が自分で考え、自分のカラーとは何かを意識するようになりました。コンクールではいつもプレッシャーがあり気が抜けない状況になりますが、CDのときはプレッシャーをいい方向に持って行く。いきものがかりとの共演もいい経験になりました。生徒はプロを間近で見て、音楽とは何かに向き合えました。

・私は吹奏楽によって小さい子供たちに夢を与える音楽をやりたいです。子供だけでなく、お年寄りの前でもどんどん演奏したい。音楽の力を感じ取ってほしいです。吹奏楽はジャンルとしての存在感が高まっているとはいえません。吹奏楽はアマチュアだからこその良さがあると思うので、いろいろな層に訴えかけていきたい。プロは上手なのが当たり前の世界ですが、アマチュアは音をミスしたとしても、いい音楽はいい音楽といえるのです。

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