線でマンガを読む『五十嵐大介』
作家の引く描線は彼の物語、宇宙観を何よりも雄弁に語るだろう。その典型例が、五十嵐大介である。
五十嵐は主線に強弱が比較的つきにくく、細い線を引くことができる丸ペンを用い、細部をボールペンで緻密に書き込んでゆく。微細な線の集積によって描かれた、人物を圧倒するほどの存在感を有する動植物たち。一般にマンガに描かれる動物や植物は、デフォルメされたり、あくまで「背景」として簡略化されることが多いが、五十嵐の場合はちがう。五十嵐は「自然」を描くことに尋常ではないこだわりを持った作家だ。
それは、間違っても素朴な美しい風景としてではない。大いなる力で人間を包み込む聖性を有すると同時に、むごたらしく人々を飲み込む恐ろしいものでもある。人間もまた、他の生命と同様に畏怖すべき自然の円環のなかに組み込まれた小さな存在でしかない。原始宗教のアニミズムに通じる世界観が線によって見事に表現されている。
目下、『アフタヌーン』にて連載中の最新作、『ディザインズ』は、宇宙開発や軍事利用を目的として極秘裏に生み出された、「人化」された動物たち、「HA(ヒューマナイズド・アニマル)」をめぐる物語である。遺伝子操作にて誕生した彼らは、動物としての本能によって縦横無尽に密林を駆け回り、静寂の闇のなかから現れては人間の兵士たちを殺戮する。
主人公は、カエルを「人化」した少女。物語の全容はまだ明らかとはなっていないが、ページをめくるごとに溜息が漏れる圧倒的な描写力を体感してほしい。
write by 鰯崎 友
※本コラム中の図版は著作権法第三十二条第一項によって認められた範囲での引用である。
(『ディザインズ』 五十嵐大介 講談社 アフタヌーンKC)
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