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夢現(ゆめうつつ)#2
突如として始まった
ひふみの人生に
どんな意味が
あるのだろうか
いなか道の川端で
アレコレ夢想しているのが
私なのか、ひふみなのか
区別がつかない
ふと我に帰ると
左手に高見と書いた
上履きを握りしめ
右手には靴洗いブラシを
持っている
どうやら、この川端で
上履きを洗っていたようだ。
私の記憶のはずなのに
どこか既視感を覚えるのは
まるで二人の人生を
知っているようだし
これを前世の記憶
とでもいうのか?
などと考えてしまう
それでも
この日、この時が
初めて「ひふみ」を
自覚した時だったのです
あぁ、また
気が散る
多分、ひふみが
子供だからだ!
定まらない視線に
飛び込んできた物
それらに
どうしても
持っていかれる
目の前の小川に木製の板を
何枚も渡しかけ
幅5mほどの橋になっている
その先が、どうやらこの家の
駐車スペースらしい
CAMAROという
英語で書かれたエンブレム
濃緑のボディを
ヒラタクワガタのように
横に低く広げた外車が
大きな顔して停まっている
そこから菜園と果樹が
植わった小庭の
脇にある小道を
たどっていくと
木枠にガラスがはめ込まれた
引き戸の玄関が見える
サッシではない
昔の模様ガラスに
懐かしさを
ホンの垣間覚えた
声が聞こえる
「おねーちゃぁーん」
幼い子の声だ
意識していないのに
私が返事をした
「はーい。なぁにぃ」
驚いた!
どうやら私の家らしい
洗いさしの上履きを
道端にポンと放り出すと
瞬間、タタタと走り出し
その軽快さに自分が
若いことを実感し
軽い身体に
歓びを覚えた
玄関わきの縁側から室内を
覗き込むと
幼い弟が、口の周りに
ご飯粒を付け
おにぎりを握りしめ
「おみずー」と
尖らせた口で言う
ほっぺのご飯粒もろとも
ニカッとわらい
「ななねぇーみずほしー」と
愛らしくしゃべったが
言葉が口から出るたびに
ご飯粒も
同じ数だけ飛んでくる
「うん、わかった」
私はそういうと
安物のゴムサンダルを
乱暴に脱ぎ捨て
上がり込む
そのまま、座敷二間を
歩き抜けた突き当たり
左側が家の炊事場でした
お台所横の
水切りに伏せてある
コップをとり
水道を勢い良くひねった
横1cm縦2cmの
水色をしたタイルが
ギッシリ
敷き詰められている流しに
シャァァァーっと
水泡交じりの水が
勢いよく飛び出し
それをコップに半分ほど
受けると
弟にわたそう・・・
待てっ、このままじゃ
コップもべたべたになるぞ
弟の握りしめた
おにぎりを皿に戻し
モミジの両手を水道で
丹念に洗ってやる
届かないので後ろから
抱きかかえつつ
洗ってやるのは
骨が折れるものだが
当の本人は
冷たい水が心地よいらしく
キャーキャー大喜びだ
落ちてくる水流に
両手を拍手のように
パチパチと
たたき合わせるので
あたり一面に水が飛び散る
「ななお、ちゃんとゴシゴシしてちょうだい」
そういうと
やっと神妙に洗ってくれた
私が「ひふみ」で
弟が「ななお」
ひーふーみーで
ななーやーここのっ
とおー
から付けたと聞いた
当時○○子とか
○○夫とかが
主流の時代だったから
あえて、ひらがなの風流を
気取ったらしいが
姓名判断など意味は
考慮しなかったらしく
あくまでも、呼びやすい
「音」で決めたのだ
後に授業で
「名の由来」という
作文を書くときに
とても困ったんだ
由来など無いし
意味などと言われても
創作するより仕方がない
キラキラネームも大変だが
安易なのも考えものだよ
やっと、きれいになった手で
のどを潤した弟は
「おねいちゃん」
「まだ、おわんないの?」
と、聞いてきた
私は
「もう少しだからね」
「おりこうでまってて」
そう言うと
脱ぎ捨てて裏返った
サンダルにグニュグニュと
裸足の足をねじ込み
大急ぎで小川に取って返した
洗いさしの上履きを
川にザブンと突っ込むと
手荒に
ジャバジャバかき回して
すすいだ後は
両手で上から下に
振って、水切りし
隣家との境に3段ほど
積んであるブロックから
突き出した鉄筋に
片方ずつ引っかけた
急がなきゃ・・・。
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