夢現(ゆめうつつ)#1
突然「ひふみ」の
人生は始まった
ある土曜の午後に
扉が開かれたかの如く
いきなり記憶の中で
スタートを切ったのです
とは言っても
あくまで「ひふみ」の
感覚でしかありません
それまでの記憶が
全くと言って無かったので
自分が湧いて出たかの
ようでした
どうやって生きてきたのか
「今」の生活や家族が
本来のものなのか
何らかの意思により
与えられたのか
切り取られ
新たにつながれたように
その瞬間から
「今のひふみ」が始まったのでした
これは?
いつの時代だろう・・・
田舎の
舗装されたばかりの小道
両端には、思い思いの垣根に高低がつけられ
葉物の家庭菜園や
こじんまりとした庭繕いが
開けて見える
腰高程度の垣根には
ところどころ
切れ目があり
正式な入り口を介さずとも
好きな切れ目から
隣宅へ訪う道が出来ており
どこからか、テレビらしき
番組の音も聞こえてくる
季節は春から初夏に
かけてだろう
少し汗ばむ気温に
緑を介した爽やかな風が通り
その吹き抜ける風に
草花と光の香りがする
青臭い葉の匂い
フンワリと柔らかい花々
清廉な中に藁のような
陽射しの温かみ
くんか くんかと
深く味わい
眩しくて
うっすら閉じた瞼に
明るいオレンジが映り
大きく息を吸う・・・
取り込まれた香気を
味わいつつ
肺の中を洗い満たし
血流により
全身へと運ばれる頃には
細胞一つ一つが
新しく生まれたような
感覚となった
両手を上へ上へと挙げて
これ以上あがらない所まで
伸びをし
穏やかな目覚めにも
似た感触を満喫する
そうしながら
私は、ぼんやりと
考えた
薄っすらと開けた目に
やっと、見えたような
「ここ」
私は、何処にいるのだ?
目の前に広がる風景で
人工的なのは舗装された
アスファルトの路面と
道路際に等間隔で
建てられた電柱
そして・・・驚いたことに
庭先に止めてある車が
サニーやカローラだ!
全体的に丸っこいフォルム
白黒写真で見たような
レトロさがカワイイ
それにしても
車種で「昭和」を
確信するなんて
自覚のない知識に驚きつつ
やっと自分というものを
認識するに至った
車が履行出来る程度の道端に
私(ひふみ)は、立っており
道の片側に小川が流れて
その傍に立ちながら
新しい世界を俯瞰している
そんな
疑似体験のような状態は
私が、私であって、私でない
おかしな感覚である
一瞬のまにまに
取り込んだ情報は
ひふみの記憶なのか
私の収拾なのか
区別がつかない
かねてから知っていたようでありながら
初めて遭遇したような
模糊とした不確かさに
困惑するが
思考がアチラコチラに
飛んで定まらず
ふと視線を落とすと
いきなり澄んだ流れが
飛び込んできた
コンクリートで
形よく整えられた
側溝ではなく
苔と水草に縁どられた
幅1mにも満たない小川で
ジブリ作品で観たような
情景に目が奪われる
時々、日射しの反射が
水の流れにキラッキラと
虹色を着け
その美しさに眼を細め
魅入ることしばしに
どれくらい経ったろう
見るも涼しげに
流れる水面に
私らしき顔が
クニャクニャと
見え隠れし
おもわず笑みがこぼれた
大小さまざまな石ころが
水の流れに模様を描き
出っ張った大きい石を
乗り越えた先で
軽く渦を巻きながら
進んで行く
小さい石の凸と凹は
流れがわからない程
静かで幼貝がたくさん
ひしめいて
そんな川底には
色と形、大きさが
とりどりの砂利が
濃淡のある水苔に覆われて
細密な絨毯を敷き詰めた
軟らかさである
おやおや?
動く石がいるぞ
小石と見まがう
タニシの巻貝が
あちらこちらで
好き好きに
のそりのそりと動いてる
その横でゆらゆらと
流れに沿う水草の中には
全身が透明に透けている
小エビが出たり入ったり
忙しく働いている
ほほぅ・・これは
蛍の幼生だね
こちらにはトンボの幼生
ヤゴもいる
図鑑か動画でしか
お目にかかったことが
なかったが
(ような気がする)
こうしてみると
最近リバイバルで見た
「ウルトラマン」に出てきた
怪獣の極小版に似ているな
おやっ?
メダカ?だろうか・・
他にも小魚が
群れて泳いでいるね
ふむふむ
今は見えないが
側壁の切れ目や穴には
カニなども潜んでいるはずだ
いつまでも飽きることなく
見ていられる
川の小世界
私はここでいったい
なにをしているのだろう?