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永遠の春

食卓で話していると
父が自分の
左側ばかり気にしています

チラチラとみるだけでなく
不自由になった左手で
何かを触るのです

そして
「ねぇ、この子はだれ?」と聞きます

誰もいないのですが
否定はしません
父との楽しい会話の
始まりですからね

誰かいるの?と
聞き返すと

「大きな犬が
     ずっとそばにいるよ」と
答えます


思わず
涙が溢れそうになりました


私のうちでは19年前
18歳で亡くなった犬を
飼っており
(ちーと呼んでいました)
私たち兄弟よりも両親は
可愛がっていたぐらいで

親戚から友人まで
わかっていたから
冠婚葬祭にも
出席していました

怪シリーズ4はこの子の話を
アレンジした物語です
本文最後に貼っておきますね



常々、母とは
自分たちが亡くなるときに
先に虹の橋を渡った
ちーちゃんが
お迎えに来たら
ある合図をしようねと
話していたぐらいなのですが
流石に男性の父には
言っていなかったのです

まさかとは
思いますが
本当にちーが
お迎えに来たのなら
どうか
もう少し、待って欲しいと
伝えればよかった

もう少し時間があるけれど
早めに父のそばに来てくれたと
そう思っていたのです

でも、今になり
思い返すと

これまで、身内の
今際の際に関して
お迎えの
しるしがあってから
数日で皆
旅立っていました

忘れていたように
逸していました

私の希望が
打ち消していたのかも
しれません



時間は
砂が流れるよう

サラサラと
こぼれ落ちていき


とうとう
容体が悪化し

か細い声で
「たす  け て」
「く  る  しい」
と訴えるようになりました

だから
あまりにも苦しむ父に
病院に行く?
と聞きました


行ったら
帰ってこれなくなる
かも…

いや、きっと
帰れない

それでも
この苦しみを少しでも
和らげたい


一緒に居たいと願う
私のエゴのために
父に我慢させるなんて
出来ない

父は父で
もう入院はしたくないと
言っていました

病院への
不満ではなく
寂しさからです


それでも

あまりの苦痛に
「うん」と答えました

私  わたしは

涙をこらえ

「もう一回、体調を
整えてもらって
また帰ってこよう」

そう、話しかけました

「うん」と
苦しそうに父は頷き

大急ぎで
病院に向かったのです

介護もだいぶ
過酷になっており
疲れていたところに
この事態でしたが
病院にお願いしたことで
その日は泥のように
眠ってしまいました

翌日9時には
病院に向かうはずが
寝坊した挙句

数年前に植えた
クリスマスローズの花が
咲いていることに喜び

父に見せようと
写真を撮っているとき

病院の番号です

何か忘れ物をしたかしら?
もうすぐ向かいますと

言えばいいや・・
などと

私は、この時も
3回目の奇跡を
信じ

父が乗り越えてくれると
思い込んでいたのです

「はい
       おはよーございます」

明るく出た私に

「お急ぎください」
「鼓動が弱くなっています」の
言葉が
突き刺さりました

それから、どうやって
病院に行ったのか

到着したときは


間に合いませんでした


ゆっくりと眠ったまま
召されたと…


苦しさから刻まれていた
眉間のたて皺は
2時間ほどで消え

代わりに

そう、かわりに

私たちを
悲しませまいと
したのでしょうか


いつもの
ニコッと笑いながら
眠っている笑顔の寝顔に
変わっていきました

穏やかな
本当に優しいお顔です
どれほど時間が経過しても
最後まで
生前のままでした

これまでの人生で
こんなに泣いたのは
初めて。

これまでも
幾たびかの
悲しい別れは
ありましたが
こんなにも
辛いことはありません


正直、それを紛らわせようと
文字を綴っているのかも
しれません

起業したビジネスの
企業訪問アポも
予定通りこなしています

そうしていないと
涙に暮れすぎて
しまいそうで


父の声や、温もり

子どもになり
甘えたようなしぐさ

ひっきりなしに
私を呼ぶ声

それが
プッンと切れ

父を失った現実に
飲み込まれそうで…




わずか2週間でした


その間、人生の中で
これほど
父に接したことはなかった

手を握り、肩や背中を揉み
語り合い、笑い

もう少し・・
そうしていたかったけれど


2023.03.06
満開の菜の花の中
青空に帰っていきました



最後までご覧くださり
ありがとうございました


Bauntfulet
sennninnkame
亀井速水




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sennninnkame亀井速水
毎日の重ねから私なりの 「思い」を綴っております 少しでも「あなたの」琴線に 触れるものがあれば幸いです 読んで下さり、ありがとうございます