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名もなき路面のビビン麺

あの時路上で食べたものが、今でも忘れられない。
あれが何処でさえ、今では見当もつかないのだけれど
あの時は夢では無く、確かにあったし確かに食べた。

それは10年ほどの前に行った、韓国釜山でのこと。
当時まだ日本に就航間もない、ジェットスターのキャンペーンで
安く韓国に行けたことがあった。片道3000円を切る航空券が
手に入り、釜山に行く事となった。

私は出かけるのが好きで、暇さえあれば出かけたかった。
そして出来るだけ安価に、出かけるのが好きなので
そのキャンペーンにも飛びついたわけだ。

釜山は初めてではない、遠い昔の学生時代に行った事がある。
あの頃は韓国は知らない国だった。ビビンバでさえ食べたことが無い
そんな時代に行った韓国は、中学生が京都のお寺巡りするぐらいに
興味が無かった、大人になると京都が好きになる様に、私も韓国を知り
大人になり韓国へ又行きたくなっていた。

そしてラッキーな事に、釜山への格安航空券を手に入れて
ネットで、これまた格安の宿を予約して釜山に乗り込んだ。
釜山で食べ歩きをしたりと楽しかったが、そこは一人旅。
気楽なのだが、ふとさみしいときもある。歩き疲れた頃の事。

歩き回るのが好きなのだが、観光地の人が多すぎるところは疲れる。
観光客目当てのお店は客引きなどでも疲れてしまう。昔から観光地よりも、知る人ぞ知る場所のようなところが好きだった。

残念ながらガイドブックには、その要素があまりないので現地に着くと、縦横無尽に、思うがままに道を歩いてみることがある。もちろんやみくもに歩くので道に迷うし疲れすぎる、ガイドブックとおりに、歩けばよかったと思わないことも無い、旅に出て、毎回ここは気持ちの中で格闘するところ。

そんな時、ふと迷い込んだ路地いっぱいに、ビニールシートを引いた食堂の
ようなものがあった、釜山の市場や屋台が並ぶ有名な場所には
行っていたが、そこは普通の路面で、車が走っているような道なのに
人が沢山いて、ビニールシートの上で、プラスチックのお風呂椅子に
座り、何かを食べている人が沢山いた。

丁度昼時だったので、食堂だろうと覗いてみると、ビビン麺のようなものを
食べている。プラスチックの容器の上にビニールを引き、その上にビビン麺が乗っていた、食べ終わり、中央のおばさんにその容器を渡すと、おばさんはビニールをはぎ取り、新しいビニールを引きその上に、ビビン麺を乗せた。

それまでアジアの露店で食べたり、飲んだりしたことはあるのだが
路面で、しかもビニールで仕切り、洗い物しないで済むシステムは初めて見た。私が見ていたのが気になったのか、隣のおじさんが席をあけてくれた。

美味しそうだったので、中央のおばさんに隣のおじさんと同じものをと
ジェスチャーで伝えて、頼んだ。値段も分からないがきっと高くは無いだろうと、そしてぼったくられないと直観する。こんなに沢山人が居るのだから。

直ぐにビビン麺が届いた、値段は忘れてしまったが安かったと思う。
そのビビン麺がめちゃくちや美味しかった!美味しいとアピールすると
お代わりするかと又ジェスチャーされたので、おかわりをして2杯目を食べる、気づけば周りの人も美味しいだろうという眼で、私を見ながら微笑んでいた。周りの人もおかわりをして食べているのだ。

韓国語はほぼ分からない。料理名だってビビン麺だかも分からないけれど
あの料理は絶品だった。名もなき食堂の名もなき店。露店の店。露店というか道端の店だ。だけどおばさんは美味しいと、アピールする私に喜んでくれたし、辛すぎずにお願いというのも分かってくれた。そして一人旅なのにあんなに、大家族みたいに食べられた食事は未だかつてない。

韓国と日本は色々と複雑な問題もあるが、美味しいものを食べているときは幸せになるものだと思う、私の事は、どこの馬の骨かとも思われても仕方ない母国語を話せない、異国の人だとは誰でもわかるものの、疎外感はなかった。その時は一緒に美味しいものを食べる仲間というか、同氏というか、その一瞬だけはそんな感じがした、平和な時間だった。

月日がたった今でも釜山の路上であの人たちは、あの美味しい麺を食べているだろうか?みんながおかわりするぐらい美味しい麺を。無心で食べながらも平和に時が過ぎるあの時を思い出すと、懐かしく元気になり力が湧いてくる、いつかまたあの人たちに会いたい、そしてあの場所であのビビン麺を食べたい。

P.S 写真はみんなのフォトギャラリーから美味しそうなビビンバの
お写真をお借りしました。あの路上のお店よりも綺麗で、おしゃれで
違うけど、お野菜やお肉の感じが、何故か似ているような気がしています。
美味しいお写真を、ありがとうございます。


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