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三代目、やっと気が付く

20230322

祝日開けの水曜日

 8時からWBCの決勝をやっている。
日本VSアメリカなのでかなりの盛り上がり。
野球には興味ないが、このお祭りみたいな空気は嫌いじゃない。
テレビが野球一色になるのはあれだけども。




朝礼

 なんだか、隣の加工・検査部門が忙しくなってきたよう。
残業なしの日々が続いていて、心が穏やかだったが……。






10時

 加工・検査部門の人を印刷の補助に付けたいので、印刷の準備が出来次第、印刷オペレーターの僕ちゃんから内線がかかってくる手筈になっている。


 内線1回目。
NとOの机の電話が鳴った。内線の音。
隣の部屋からNが戻ってきたが、受話器を取った瞬間に切れた。

誰かは分からなかったが、急ぎなら必ず誰かしらがいる隣の加工室にかけ直すだろう。



 少しして2回目の内線。
また同じ電話に内線がかかってきた。
今度はわたしが受話器を取った瞬間に切られた。
切れる瞬間に発信元の番号は見えた。印刷部門からだ。
僕ちゃんだろ。

6コールくらいで切れるが、こっちは作業してるから長めにかけろと言われていないのか?



 また少しして3回目。僕ちゃんだろ。
加工室にかけられないのか?そっちの方が人たくさんいるのに。

予定が後ろに倒れているのでもういい加減にしろってので、
今度は椅子からすぐに立てる体勢で待ち構え、早足でかけつけたので間に合った。6コールはそのくらい短い。


わたし「はい、いつしかです」

僕ちゃん「僕ちゃんです。お疲れ様です」

僕ちゃん&わたし「…………」

……要件言えよ。あ、挨拶待ちか?

わたし「お疲れ様です」

呼び出しは待てないけど挨拶は待つんだな。

僕ちゃん「Nさんそこにいますか?」

わたし「呼んだ方がいいですか?」

僕ちゃん「いえ、印刷の準備が出来たのでお願いしますと伝えてください」


加工室のベッキーがわたしの視線に気が付いて、補助員はそそくさと移動を開始した。
「準備が出来た」と伝えるだけでNの指示がなくても動くのだ。慣れてるから。
たったその一言を言うのに僕ちゃんは何分かけてるんだ。
運動しちまっただろうが。

今後は加工室にかけてくれ、と言おうとして言葉を飲み込んだ。


 僕ちゃんはプライドがすこぶる高い系で面倒臭い人。
すこぶるプライドが高いという時点で下手に関わらん方がいい。

その上彼は、カマッテちゃんなのだ。
こちらが他の人と会話をしていると、通りがかりに立ち止まっては「自分が弄られてるー!?」と勝手に敏感に感じ取ってキャッキャッと後ろから反応して来る。

極力関わるようなことは避けたい。
本人に言うのは止めよう。





 Nが現れたので、僕ちゃんのことを話す。
呼び出しに失敗した分作業時間が延びるだけ、一体どんなルールになってるんよ、と。


N「あたしに言わなくちゃいけないと思ってるみたいで。
あたしじゃなくていいって言ってるんだけどね」

わたし「言ってるのか」

じゃあ僕ちゃんは僕ちゃんなりのルールに則ってやってるということか。
やっぱり関わらんとこ。






 お客さんから不具合品の返却があったそう。

ボス「こんな一枚で……レターケースに入れてくれれば良いのに」

ヤレバ「着払いで申し訳ない」

このお客さんは小さい物でも大きい段ボールで届けて来る。
送料を負担するのはこちらなので、あえてそうしてるのかもしれない。
怖い怖い。


 緩衝材のプチプチを捨てるのが勿体ないと言っていたので、わたしは枕にしていると教えると、じゃああげる、で貰った。

ボス「このプチプチポケット付いてる」

わたし「(枕として)手を入れられる」

ボス「手入れられるよ 笑
ほら、使いな。顔にプチプチの跡付かないようにね。ちゃんとツルツルの方使うんだよ 笑
跡付いたら水疱瘡だと思われちゃうから 笑
あたし掻きむしっておでこに跡残ってる」

O「あたしもへこんでる」

わたし「水疱瘡こわ」

水疱瘡を調べた。
正しいとは思ってないけどずっと水暴走だと思ってた。
水疱瘡って書くんだ。
そりゃそうだ。





11時30分

 一階の人達のお昼休憩。

WBCは今のところ日本が勝っていると情報が入ったが、休憩に入った人達がテレビの前に立ってて加工室から盗み見えない。


 ここで取締の速報が入った。
3-2で日本が勝っていて、9回の表。
このまま押さえたら勝つみたい。
野球って試合時間長いんだな。


N「今一番良い所じゃん」

T代「中抜けしたい」


食堂からの声で判断しよう。




 15分後、歓声が上がった。

三振取って日本が勝ったらしい。
休憩じゃない営業の小町とペロリも廊下から食堂のテレビを見ていた。

昨日の準決勝は不振だった村神様が逆転ホームランで勝利して、その勢いで優勝。
本当に現実か?映画みたい。


野球好きの殿(社長)が会社に来てなくて良かった。
絡まれるぞ。






午後

 天気娘の部署へお手伝い。
天気娘とはWBCの話と香川のうどんの話をした。


 そこへ都合さんが来て、「パネルのフィルム急ぎなんだよね」と言われた。

へー。と反応しそうになるけど、これは早く俺にフィルムを渡せという意味だろう。
急ぎってことは事前に教えられるものなんじゃないんですかぁー?

本当に急ぎなのか、暇だからやりたいのかは分からない。
パネル部門だけ独自のルールでやっているので、みんな知らない。


都合「いつしかさんとランボーさん?三代目さん?のチェックがこれからなんだよね」

わたし「わたしは終わってます。三代目が(毎度のことながら)どっか行ったみたいだからまだです」

社内にいるのか社外なのかも不明。

都合「割と急ぎなんだよねー」

わたし「(都合さんチェックしてくれてもいいけど)じゃあランボーさんにお願いするか。(4倍時間かかるけど)

都合さんからも三代目に言っといてください。
チェック出来ないならいつしかさんに伝えなって。

いるのかいないのか分からないって三代目に言ったら『小町さんに聞いて』って言うんですよ。
自分のことは自分で言って欲しいんですけど」

都合「でも市役所行ってるんだよね」

わたし「今?なんで知ってるんですか?前から決まってたんですか?」

都合「いや、急に市役所行く事になったんじゃない?」

わたし「出先で思い出しても電話があるじゃないですか」

都合「まぁね」

 大きな声では言えないが、弊社はデータを作るところからやっているが、そのデータ作成から印刷しーので出荷まで、中身をちゃんと見る人があれ。
何とは言わない。あれ。
ルールにはちゃんと書いてあるが、なぁなぁになっている。
中には出荷検査で見てくれてる人もいるが。

だから責任印だけでも捺させるために必ずダブルチェックという体制を貫いている。


わたし「急ぎのフィルムもあるからさって現場の声として言っといてください」

別に期待してない『言っといてください』だが、

都合「言っとくけどさ」

言わねえな。
わたしが何か言うより現場から声上げた方が効果ありそうなんだけど。






夕方

 現れた三代目に、イキり雑魚みたいに絡んだら望み通りになった。

三代目「すんません、今日完全に忘れてました」

苦笑いで部屋に入って来た。

わたし「あぁ!ランボーさんに見て貰いましたー!」

三代目「すんません」

わたし「もしいなくても誰かに『出ますー』って言ってくれれば伝わりますから」

今日は本当に忘れてたみたい?まぁ今さらいいけど。

あれー?都合さんは本当になんで知ってたんだー?

三代目「じゃあこれから言うようにします」

言ったな!?
てか、チェックやりたくないならハッキリ親父(社長)の方に言うんだぞ。


最後に、もう一回去り際にイキる。

わたし「ランボーさんに見て貰いましたー!」

「すんません」とドアが閉まっていく。





17時前

N「いっつー今日残業しない?手貼りがいっぱいなの」

この時間に先に声をかけて来るなんて珍しい。余程なのだろう。

いつもは帰る直前にわたしから声をかけている。
なんでお返しもないのに隣の部署に声をかけるのか納得はしていないが、Nが頑固過ぎたのでわたしが折れた。
折れた分いつでもNをボコボコにできる。
じゃないと折れない。


わたし「……いいよっ」

N「いい?」

わたし「……いいよっ」

終わらせないと長引くだけだしな。



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