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実質賃金 < 可処分所得

先日、厚生労働省が直近9月の「毎月勤労統計調査」を公表した(速報値)。

出典:「毎月勤労統計調査 令和6年9月分結果速報等」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r06/2409p/dl/houdou2409p.pdf


物価の変動を反映する実質賃金指数が「従業員30人以上の事業所」で0.6%増の2カ月ぶりのプラスになった一方、「従業員5人以上の事業所」では0.1%減の2カ月連続のマイナスとなっている。
ここからも零細企業(小規模企業)の賃上げに対する難しさが垣間見れる気がする。

最近、よく見聞きするこの ”実質賃金” は、名目賃金から物価変動の影響を差し引いた指数になる。

実質賃金 = 名目賃金 ÷ 物価指数 × 100

名目賃金は、働いた人が実際に受け取る金額で、給与明細に記載されている額面のこと。
物価指数には消費者物価指数(CPI)が使用され、これは小売段階の「財(衣料品や電気製品、食料品など)とサービス(家賃や通信料、授業料など)」の物価変動を表す指標のこと。

最近では「こんな物価高になるくらいならデフレの方が良かった」という切実な声も結構聞こえてくる。
そう言いたくなる気持ちもわかるし、その感覚はおそらく気のせいでもない。
実際にもらうお給料(名目賃金)から物価変動を差し引いた指数が実質賃金で、これが1996年をピークに下落している。
けれど、実質賃金の下落率以上にデフレによって物価指数が下落していたのであれば、実質的には賃金が上がっていたことに相当する。そう考えると、上記のような切実な声が上がるのも腑に落ちる。

あの頃、どうだったかな


要するに実質賃金は物価変動の影響も考慮したものなので、現在のように賃金が上がってもそれ以上に物価が上がっていると実際の購買力は上がらず、実質賃金は低いことになる。だから何かと「実質賃金の上昇が必要だ」「上昇を促す」「いまだ増加基調には至っていない」といった言葉が散見する。

無論、実質賃金の上昇が必要なことに異論はないけれど、やはり一番重要なのは「可処分所得(手取り)=自由に使えるお金」が増えることだと思うんだな。

消費者物価指数には、社会保険料や所得税、住民税などの直接税が含まれない(消費税などの 間接税は含まれる)。
これだと賃金が上がり、仮にデータとして「実質賃金が上昇した」と言われてもおそらくその実感はなく、実際の可処分所得との乖離を感じるばかりだと思う。

それにしても狡猾だなぁ。インフレ課税によって消費税は実質増加するし、政府の債務残高も減っていく。あっ、インフレが進めば当然賃金も上げざるを得なくなるから所得税も増加するじゃないか。

次の一手

インフレが進むほどインフレ課税の負担は増えるし、収入が増えれば累進課税である所得税の税率も上がることになる。また、先述した社会保険料にしても(特に厚生年金。40歳以上の人は介護保険料もかかる)これだけ上がり続けていれば、実質的な手取りはきっと少なくなる。

これでは賃上げが進み、実質賃金が上がったとしも税金や社会保険料が増える分、可処分所得の増加につながるとも思えない。

そして、日本のGDP(国内総生産)の約60%を占めるのが個人消費ということを考えると、ここが増えないことには景気が良くなるはずもない。
やはり上げる必要があるのは実質賃金に加え、可処分所得だと思う。

政府が企業に賃上げを促すのはもっともだけれど、求めているものは相当ハードルが高く、かなり無茶なことだと思う。それを中小零細企業に求めるのなら、特に厚労省や財務省には、もう少しまともな政策を考えてもらえないものかと思わずにいられない。

彼らは、ウルトラ・スーパー賢い官僚や役人さんたちのはずなんだから。

つづく



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