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美味礼讃 前編

パン屋さん時代に考えたこと、やってみたこと、使ったもの 17.

ここまで、労働環境改善のためには効率化、合理化が不可避なことやこれがモノづくりを生業にする人たちにとっての葛藤になること、またそこには工程だけでなく材料などの選択も関わってくると、ぼくが考える理由などを述べてきた。

読んでいただいている方には個別の話と受け取られているかもしれないけれど、ぼくはこれらを一連の話のつもりで書いている。
その後に続く話への壮大な前フリであると最初の方でお断りをしたけれど、実は本当の主題はここで紹介する小説になる。
つまり料理でいえば、ここに書くものが主菜で、後に続く道具などの話はデザートにあたり、これまでに書いて来た壮大な前フリは、この小説を紹介したいがための前菜(伏線)だったといって良い。

『美味礼讃 』 
直木賞作家である海老沢泰久さんによる辻調理師専門学校創始者、辻静雄さんの半生を描いた小説で、ぼくが最初に読んだのは、もう30年近くも前になる。
実用書などでもない限り同じものを再読するタイプではないけれど、この作品はこれまでに何度も読んできた。

フランス料理を勉強された方ならご存じかと思う偉大なフランス人シェフ、レストランも実名で登場する。
フェルナン・ポワンさん、ポール・ボキューズさん、トロワグロ兄弟、ジョエル・ロビュションさん、アレキサンドル・デュメーヌさん、ルイ・ウーティエさん…

※ ジョエル・ロビュションさんの表記が ”ロブション” でないのは原文のまま。
昔はどの書籍も日本語表記は、ロビュションだった。エル・ブジ が エル・ブリに変わったのも同じ。日本語にするときの発音表記が理由だと思う。

巻末にある解説によると日本人の登場人物は辻静雄さんを除きすべて仮名とのことだけれど、ホテルオークラ初代総料理長だった小野正吉さんは実名だった。

本作は小説なのであくまでもフィクションだとは思うけれど、それでも執筆にかかるまでに取材と調査に2年余りを費やされたこと、辻静雄さんへの面接取材だけでも50回に及んだとのことなので史実に基づいた物語でありながら虚実交えて描かれているのだと思う。
そういった意味では何とも不思議な読後感になるけれど、ノンフィクションのようなフィクションだから諸説ある時代物や歴史物的な手法になるのかな、漫画だと『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』とか。

とにかくおもしろい物語で、その中でも何度読んでもぼくが毎回感銘を受ける場面がある。

それについては、また明日。

つづく





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