見出し画像

蟻の一穴

コストコやTSMCのまわりでは「そんな高い時給は出せない」と嘆く人たちがいる一方で、TSMC周辺のコンビニでは売上が5倍になったなんて話もある。

すっかり北海道ニセコ状態だな

でもこれなら工場と同等とまでは言わないけれど賃金も上げられるだろうし、やはり卵が先か鶏が先か、ってことなんだろう。

それにしても特にTSMCの経済効果、その波及は凄まじい。新たに駅や高速道路もつくるそうで、これだと当然人口も増え、地価も爆上がりする。
工場のある熊本県菊陽町は地価の上昇率が全国で2位、隣接する大津町は全国の市区町村で1位になったとのこと。また2027年中に稼働する計画で、年内か年始には熊本第2工場の着工も始まる。

これらを自治体は無論喜ばしいニュースと捉えただろうし、政府としても前政権からの方針ということで石破首相も ”これよ、これ。地方創生、キターーー!” と思われている気がする。 

もちろん良いことばかりでなく、周辺の会社やお店の中には賃金や価格転嫁がままならないところもあるだろうし、突然地価が爆上がりしたことで「おいおい、相続税や固定資産税どうなっちゃうんだよ、参っちゃうなぁ」と頭を抱える人たちが急増といった副作用もあるに違いない。

国など大きな経済を良くしようとすると、個人単位では不都合な人も現れる。
逆も然りで個人単位で居心地の良いことは、大きな経済で考えると不都合なことが起きたり、マイナスになったりもする。
これはマクロで見るかミクロなのかといった視点の違いで、「彼方を立てれば此方
が立たぬ」といったことが往々にして起こる。
(中略)
どちらが正しくてどちらが間違っているという話でもないと思うけれど、こういった部分最適解が全体最適解にならないことが経済では普通に起こる

合成の誤謬

まさに合成の誤謬だと思うけれど、何かを得るには必ず代償がつきもので、そんなことは世の中にたくさん溢れている。
”地方創生” が決してすべての人に優しいものでなければ、すべてを「守る」といったものでもないという、まぁそういうことなんだと思う。

所信表明では交付金倍増の方針も示され、「守る」を連呼されていたけれど、これは現在すでに疲弊している人たちに保護主義といった妙な期待や勘違いを助長させる気がする。
(中略)
けれど、これもインフラ整備であったり技術革新につながる将来有望な業界や人、会社に対する投資であって、人材不足や物価高騰に困っている町の個人商店を救いましょう、といった話ではなかった。

過度な期待は、しない方がいいと思うんだな

これを読んでくださっている方の中には、きっとこう思われた方もおられるのではないかと思う(ぼく自身、一瞬思ったことでもある)。

言うても、TSMCが日本各地にできるわけじゃないし、コストコにしても出店するのは郊外なんだからそこまで影響ないのでは?

しかし、こういった「常識」「変わらない」と思っていたものが瓦解する時というのは大抵の場合、蟻の一穴が原因となる。
先に述べたように、日本が変わる時というのは往々にして外資など外圧によってもたらされたものなんだから、そう思うとコストコやTSMCが蟻にも黒船にもなるのかもしれないな。

「TSMC工場の立地やコストコの出店場所は局地的なものだから」と対岸の火事に捉えていると、好条件による応募者数の多さを認識した別の会社やお店の中にも「それなら、うちも」と相場以上の賃上げをするところが現れることも考えられる。
また、それが可能な事業所が、実は結構あるのではないかとぼくは思っている。

これを書いていて、思い出したことがある。

ぼくの経営していた店が2009年に東京へ出店したばかりの頃、同業のオーナーシェフの方たちが歓迎会の場を設けてくださった。
今ほどではないけれど当時から人材不足が恒常化していた業界なので、そういった立場の人たちが集まればおのずと話題もそういったものになる。

「ところで、メックさん(ぼくのこと)のとこは、初任給いくらにしているの?」

ぼくが正確に、正直に答えると、冗談混じりではあるけれど一斉にこうツッコミが入った。

「メックさんがそんなことするから、オレらが困るんやわ(笑)」

つづく




いいなと思ったら応援しよう!