見出し画像

光学迷彩

次のグラフは、国の「一般会計税収の推移」になる。

出典:「税収に関する資料」(財務省)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a03.htm

パッと見ただけでも2009年からほぼ右肩上がりで増加傾向にあることがわかる。
2023年度の税収は72兆761億円、4年連続で過去最高を更新中。
ちなみに直近の2024年度分が下がっているのは、この時点での予算額のため。

いきなり余談だけれど、このニュースを報じた新聞などメディアの見出しは、おしなべて「4年連続で過去最高」「法人税が大幅増」「企業の好業績反映」「法人・所得税が堅調」といった言葉が並んでいた。
確かにその通りだけれど、「消費税が」とは書かないのね。
消費税が10%に増税された時、生活必需品でもない新聞だけが、なぜか軽減税率の対象にしてもらった、という大人の事情でもあるのかな。

話を戻そう。

グラフを見れば、確かに法人税(黒い点線の折れ線)も伸びているけれど、消費税(太い黒線)も堅調に伸びていることがわかる。
3%から始まった消費税はその後、5% → 8% → 10% と増税をしているので、税収増に影響があったとは思う。けれど2010年以降、消費税も過去最高を更新し続け、10%へ引き上げられた2019年以降は増税がないのに伸び続けている(22年と23年は同額)。

つい最近の記事によると、今年7月の税収が前年同月比で35.6%減だったらしい。
これは、6月からの定額減税の影響で所得税などがかなり減少したため。それでも法人税は約4.3倍、消費税は1兆1023億円で前年同月比21.5%も増加している。
現在のインフレが起き始めたのが2021年の終わり頃で、翌年4月以降の消費者物価指数が2%を上回っていたことを思うと、この消費税の伸びは、やはりインフレによるものだと思う。

すごいな、インフレ課税。


別の側面からもインフレを考えてみる。

現在、国の借金(政府の借金)は、約1300兆円。
先に断っておくと、「それはいわゆる ”借金” とは違う」という考え方があることも承知している。けれどそこから述べていると話が進まなくなるので、とりあえず「財政健全化が必要」という側の視点で述べさせてもらう。

このトンデモな借金を財政健全化しようと考えると、方法は3つ。
個人や会社と同じで「収入(歳入)を増やす」「出費(歳出)を減らす」、そしてこれは個人や会社には無理だけれど、「インフレを起こす」。

先日、白川・元日銀総裁の退任記者会見での言葉を引用したけれど、あの会見の中で元総裁は、こんな発言もされている。

結局のところ、悪化した財政バランスを回復する方法は、財政再建に取り組むか、デフォルトか、あるいはインフレで債務を帳消しにするか、この3つしかないわけです。


先述したようにインフレは、通貨の価値が下がること。単純に言ってしまえば、物価が2倍になれば通貨の価値は半分になる。
政府の借金も額そのものは変わらないけれど、インフレによって日本円の価値が下がればその借金は実質減ることになる。
つまり政府がやっていることは、インフレを起こし間接的ではあるけれど国民のお金(資産)で政府の借金を返済しているのと変わらない。

こうしてインフレが進めば税収(消費税)が増えると同時に、借金も減っていくという政府にとってはまさに一石二鳥だ。けれど、その代償として国民の資産は目減りし、物価高騰とインフレ課税に苦しめられることになる。

それでもスーパーやコンビニで「高くなったなぁ」「小さくなったなぁ」「中身が減ったなぁ」と思うことはあっても、金融に携わる人や外国為替証拠金取引(FX)をやっている人でもなければ、「通貨の価値が下がっている」なんて意識する人もなかなかいない。

日々、日本円で生活している限り知らず知らずのうちに納めているという、まるで光学迷彩(「攻殻機動隊」に登場するカモフラージュの技術)のようなインフレ課税の恐ろしさ、破壊力よ。

つづく




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?