原点は荒野だった
タイトルに使ったモノクロ画像は、今から40年前、パイオニアから販売されていたカーオーディオの雑誌広告だ。
「ロンサム・カーボーイ」という名前を記憶されている方もいらっしゃることだろう。
テレビコマーシャルは、俳優のウォーレン・オーツが、荒野に置かれたバドワイザーの空き缶を拳銃で撃つ、そこに片岡義男のナレーションによって、秋山晶のキャッチコピーが重なるというものだった。
82年にウォーレン・オーツが亡くなってからは、音楽を担当していたライ・クーダー自身がコマーシャルに登場する。
その一つがこの写真だ(劣化がひどく、モノクロにしてあります)。
40年前、アメリカという国はまだまだ憧れを抱くことのできる国だった。
荒野の中を地平線までまっすぐに伸びた道路を、対向車とすれ違うこともないままひたすら走って行く、そんな旅をいつかしてみたいと夢見る青年・少年は珍しくなかった。
頭の中に思い描く景色にぴったりと重なる写真や映像、そして音楽。
憧れを掻き立てるようなキャッチコピー、宣伝されるものはカーオーディオ。
少年の心は、いともたやすく鷲掴みにされた。
「ニューヨークでザ・リバーというのは河ではない。絶え間なく続くクルマの流れのことだ」
「荒野にいたときよりシカゴにいたときの方が寂しかった」
「人間が本当に孤独を感じるのは、群衆の中だ」
「彼はニューヨークで、ニューメキシコの夢をみる」
「地図を広げてみても戻っていくところはない。荒野だけが故郷だ」
雑誌の広告には何種類かのパターンがあり、それぞれに写真とコピーが違う。たった1ページの広告のために、空っぽの財布からなけなしの金を出し、僕はさして興味もないカー雑誌を買った。
広告のページだけを切り取り、残りはすぐさま捨てた。
コピーの文面の順に並べると、そこに姿を表すのは小説そのものだった。
自分が憧れる世界とは、こういうものなのだと初めて意識した。
僕は17歳だった。
原点はいつだって原点のまま、いまもそこにある。