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使いにくい新刊書店と、愉しい古本屋

近くのターミナル駅に少々大きめの書店がある。
街の書店もあるにはあるのだけれど、やはり在庫に限りがあって、町の本屋の大切さはわかっていながら、ついつい大型の書店を便利に使ってしまうのだが、これが実に使いにくい。

とにかく本が探しにくくて、買うべき本が決まっていても、店の中をしばらく歩き回らないと、お目当ての本にはたどり着けない。
おまけに「ついで」の発見も少なくて、それを不満に思いつつ、この書店とは相性が悪いんだろうなといつも感じている。

どうしてこうも探しにくいかといえば、本の並びが結構な頻度で入れ替わるからだ。
書店としては在庫を効率よく並べているつもりなのだろうが、客の立場からしたら「前に来た時と置き場所が違う」と探し回る羽目になるというわけだ。
小説ばかり読んでいて運動不足にならないよう、書店としても読者の健康に一役買おうなどと考えているはずもなく、店員が仕事をしているふりをするのに一番都合が良いのが書棚の入れ替えなのではないかと、邪推も甚だしい想像をしてしまう。

そのくせ古書店の混沌とした書棚は大好きなのだから、面白いものである。
ブックオフを古書店と呼びたいとは思わないが、あんな風に整然と並べられていると、こちらとしては興醒めだ。

学生の頃によく通っていた古書店は、「ザ・古書店」と言いたくなるほど整然さとは縁のない店で、書棚に収まりきれない古本が床から何本もニョキニョキと伸びていた。
得てして面白そうな本はタワーの下の方に埋れていて、しまいには目線の高さに並んでいる本よりも、積み上がったタワーの下の方を先に探すようになったほどだった。

店の中に時折「ザザーッ、バサッ」という、本が雪崩を起こす音が響いた。
僕も何度も雪崩を引き起こしたものだ。
その度に店主のおじさんに睨まれ、レジに本を持って行くと「相変わらず本を抜くのが下手だねえ」と呆れられた。

それでも足繁く通ったのは(金がなかったせいもあるけれど)、古本屋の本の隙間をさまようことが心地よかったからだ。
知的刺激というと随分陳腐な言い方になってしまうが、新刊書店では味わえない何かが古書店には間違いなくあった。

今となっては古い小説もネット書店で買うことができるようになってしまい、まったく味気ない限りですねえ。
原生林のような本の森に迷い込んで、必要のない本まで買っちゃうのが楽しいのに。

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樹 恒近
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