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村上龍『69』
社会人生活を続ける中で、膨大な分量の文字の中から必要な情報だけを抜き出すだけのインプットに追われる習慣からか、気づけば文章が読めなくなっている気がしていて。まずはリハビリがてら薄くて良い小説とのことでチョイスしたのは村上龍、『69』
村上龍については『コインロッカーベイビーズ』『限りなく透明に近いブルー』を含む有名な何冊かは読んでいたものの、読んでて疲れる気がして、なんとなーく村上龍には苦手意識を持っていたのだが、この作品は例外と言っていいのかもしれない。というか完全に例外である。めちゃくちゃ面白え。
これはとある高校生の1年間を描いたコメディ小説である。もう少し噛み砕くと、大人になった主人公が高校時代を思い出して記述するスタイルで描かれる、ただの「アホ」な高校生の物語である。(一応補足しておくと関西弁で「アホ」は「バカ」と明確に区別され、「アホ」には学力/思考力とは違った「愛すべきヤツ」と言ったニュアンスを持つのである。罵っているわけではない。)
具体的にも、高校生だったケンは、当時流行っていたバリケード封鎖やフェスティバルを企画⇨実行までやり切ってしまうところに優秀さも感じられる。しかしながらその動機はモテたいだけだったり、そもそもバリケード封鎖をやったとてモテるかどうかとは全くの別であることもいえよう。
そんなこんなで、コミカルに表現されていく物語の全ては、やはりどう考えてもアホの所業であり、そんな「アホなこと」に全力を尽くす高校生の姿を想像してなんとなく自分の姿と重ねてしまいクスッと笑ってしまう。
最後のページでは、30代の小説家になったケン、というか龍はこのように綴る。
「楽しく生きるためにはエネルギーがいる。戦いである。わたしはその戦いを今も続けている」
苦しかったことも嫌なこともいっぱいあったけど確実に「楽しく生きる」ことができていた高校時代を思い出して、今も「楽しく生きる」ための「戦い」を続けられているのか。一度振り返って考えたいな。
というかこの小説、『69』というなぜかドキッとさせられる題名がついているけれど、もちろんこの小説は69という文字列から、大人なみなさんが想像しているような内容ではないのでご安心を。
それでもどこかそわそわしちゃいそうな『69』なんて題名のこの小説が、女性誌に掲載されてたってんだから、高校時代から大人になってもなお戦い続ける村上龍のヤンチャ坊主っぷりが見える(ような気がする)(知らんけど)