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「天心 VS 武尊」のルールは不公平だったの?という話

最高だった 『THE MATCH』  『天心 VS 武尊』

2022年6月19日の試合から1週間が経ってもまだ試合を見返してしまう今日このごろ

  • この試合の実現の喜び

  • 本当に白黒つけてしまったときに私自身の感情への恐怖

  • 噛み合わず塩試合、不満の残る判定に陥ってしまうのではないかという不安

  • どちらかの動きが本調子でなく、名試合が成立しない心配

そんなすべての感情を飲み込んで『最高』だけ残してくれた試合だった

  • 1Rの狙い済ませた那須川天心の最高のカウンター

  • 2・3Rの武尊の猛追

  • 勝った天心の改めての強さの証明

  • 負けて改めて光った武尊の本気

ダウンもあり、判定も明瞭で、最高の結末の世界線にたどり着けたと言えるだろう

両者共に評価が上がり、次に繋がる最高の結末を迎えた
そんなふうに私は思っている


未だ暴れる過激派武尊ファン

ある程度少数派ではあるのだが、未だに暴れる過激派武尊ファン(武尊選手に申し訳ないので過激派と形容させてもらう)がいる悲しい事実もある

どうも武尊勝利で終わらないハッピーエンドに文句をつけたくて仕方がないらしい

主だった主張は『ルールが天心寄りだったから天心が勝った/武尊の方がかっこよかった/本当は武尊のほうが強い』という話である

こういう輩は決して0にはならないので、駆逐したい・論破したい気持ちはない
SNSという性質上少数はのおもしろ意見が拡散されて大きく見えてしまうという面もある

そもそも、両陣営が納得して決めたルールに対して無粋な話ではある
が、ただただ事実として、

  • ルールが本当に天心寄りだったのか

  • ルールをどうやって決めれば中立なのか

という辺りを主張しておきたい

ルールはあくまで折衷案

前提

まず大前提として、階級の異なる両陣営が決めたルールであり、それ以上でもそれ以下でもないことは述べておく

キックやボクシングの前日計量でさえ、水抜きの量によって翌日に両選手の体格が違うことで有利不利は生じている
ムエタイや柔術は当日計量であって、それがフェアであると考えているのだろう
いかなるルールであれ完全に公平ということはなく、取り決めを行い、その中で最大限力を出せるようにお互い努力するということで公平を担保している

その前提はあれど、今回の天心 VS 武尊のルールは多数が不公平だと感じるほど天心寄りだったかについて考えていこう

体重はどちらが有利だったか?

一番に挙げられるのは体重だろう
55kgの那須川天心と60kgの武尊が戦うのに対して、今回のルールは下記のとおりだった

  • 前日計量58kg

  • 当日計量62kg

これに関して、過激派武尊ファンたちは武尊不利を叫んでいるが、契約体重に関してピュアに見るならば有利なのは重い選手である

那須川天心と武尊ということを一旦忘れて、55kgの選手と60kgの選手が58kgで戦うとすると、明らかに60kgの方が有利である

重い選手のほうが調整が大変であるが、試合は有利だというのは間違いない
ここに関してはにわかといえど、説明不要であろう

問題は当日計量の話だ

  • 当日計量などこれまでのRISEやK-1にない

  • 減量が終わったのに十分に栄養が取れない武尊が不利だ

というのが過激派の主張だ

まず、当日計量が組まれた意図は『前日計量58kgだけでは軽い選手が不利であること』を解消したかったことは明らかだ

そのためには他にもオプションがあっただろう
例えば前日計量を57kgにするなどと言った、真ん中ではなく軽い側に寄せる方法もあったはずである(というかそれが先に検討されるのが自然である)

実際に2021年の大晦日には天心 VS 武尊が決まりかけたときには57.5kgで決まっていたとHIROYAがYoutubeで漏らしていた(現在は削除されている)

その方法の一つとして、当日計量が取られただけで、過去に例がない事を批判するのは的外れである

減量を終えたあとの武尊が辛いというのも、それは事実ではあるが選択の一つではある
水抜きを多くするリスクを取るか、当日のリカバーを緩やかにするかという選択であるので、一概に武尊不利とは言えない

もちろん、この交渉にどのような背景があったかはわからない
公開されていないのである

天心サイドが『当日計量は必須だ!』という主張を通したのかも知れないし、天心サイドの57kg要求に武尊側が『当日計量で調整するから58kg契約にしてくれ』と言ったのかも知れない

過激派には、わからないことを妄想で補完する悪い癖があるわけだが、そこのイニシアティブはどちらにあったかはわからない

だた、ピュアに条件を見つめると少なくとも『明らかに武尊不利』という条件ではない

ましてや、那須川天心は2022年4月に55kgで試合をしている
おそらく大晦日時点では決まっていただろう
そこから2ヶ月後の6月に58kgで試合をするのは、体格差の不安は当然あって然るべきだろう


ワンキャッチワンアタックは影響したか

次にワンキャッチワンアタックの話だ
これはRISEルールにするかK-1ルールにするかの話で、これも天心サイドに傾いたという点を指摘する過激派がいる

これはRISEルールであるため、やや天心有利ではあるが、騒ぐほど影響しなかったというのが結果でもあるし、私の見解である

まず両選手ともワンキャッチワンアタックは経験があるし、実際の試合でも数度利用されたが、その程度に見えた

石井館長がスポーツ記事のなかで、クリンチはワンキャッチワンアタックをうまく使ったと言っていたが、あれはK-1ルールでも認められている(正しくはRISEでもK-1ルールでも定義されていない)

参考だが、ワンキャッチワンアタックは世界のスタンダードである
GloryもONEもRISEもありで、禁止しているのはK-1くらいである

結論

ルールは折衷案といえるレベルで、考え方によって体重の重い武尊有利とも、ルール的に天心有利とも言えるものであった

ただ、個人的見解も含んだ補足としては『天心 VS 武尊』 に関してはもう少し武尊寄りでも良かったのではないかと思っていた

なぜなら、基本的な能力は明らかに那須川天心のほうが高いため、ルールを武尊に寄せたほうが拮抗した試合になりやすいのではという思いがあるからである

60kgの選手と55kgの選手が戦う上では妥当性のあるルールでも、『天心 VS 武尊』を拮抗した試合にするためには妥当ではない

という考えが、過激派の中で曲がり曲がって『ルールが武尊不利だ!』になっていったのではないかと予想している

以下は補足的な情報になる

試合前のプロモーションは武尊の方が圧倒的に強かった

過激派を刺激しかねない話だが、武尊のプロモーションが天心よりもファンの心を揺らしたのは明らかであった

武尊は『言いたくないけど』を枕詞に、条件を良しと思っていないこと、減量が辛いことをSNSなどのメディアで発信し続けた

反面、那須川天心は4月以降SNSでの発信を停止した

その分ファンの心が武尊側に傾いたのは自然である

これは今の時代、試合だけでなくそこまでのプロセスを見せることが重要であることが顕著に見えた例である

減量が辛いのはプロ選手の誰もが口にすることであり、武尊選手も辛かったことは疑う余地がない
しかし、減量幅を考えると、武尊選手の減量が他のプロ選手と比較して飛び抜けてキツかったかというとそうではない

例えば直近であった青木-秋山の秋山の13kgの減量(水抜きなし)と比較してどうか
秋山よりも武尊の減量の方が辛そうなイメージがある
実際には単純比較はできないが、同等以上の減量をしたことであろう

武尊の試合前のプロモーションは辛い減量をより辛いと伝えるのに一役も二役も買っていたことに気づくことができる

武尊も思った「ルールの主導権を持ちたい」

さらなる余談だが、もともと武尊選手は2018年3月のK'SFESTAで武尊はこう言っている

「僕と闘いたいならK-1に上がってきてください」

名前こそ出していないが、天心選手へのメッセージであることはすべての観客が理解していた

すなわち「自分の階級で」「K-1ルールで」やりましょうという主張である

K-1にプライドをもったK-1王者がK-1で戦いたいと言うのは、個人的には違和感もないし、構わないだろう
ただ、今の過激派が言う「相手のルールを飲んだ方がカッコいいやろ!」とは矛盾することの気づきにはなるのではないかという共有である

ルール縛りで言えば、むしろ昔からK-1のお家芸ではある

余談の余談だが、ルールで縛るのはK-1のお家芸である

武尊は2019年に現役ムエタイ王者の謳い文句でヨーキッサダーと試合を行い、KO勝ちをしている

ヨーキッサダーは武尊よりも階級が下で、ルールもK-1ルールどころかキック(肘や掴み膝なし)ルールでの試合経験は一度もなかった
その後も一度も試合していない

これも武尊の試合の意義を問うものではないが、ルールを相手に合わさせることに関してK-1贔屓のファンが文句を言っていると失笑ものである

ムエタイ系の選手をK-1ルールで倒してマウントを取る芸はもっと古くからの伝統で、ブアカーオや小比類巻などの選手もルール縛りに苦しめられた選手でした

近年では小比類巻が愚痴っていましたね

皮肉にもルールを飲んで戦ってきたのは天心だったりする

これも、過激派武尊ファンの「天心憎し」を刺激してしまう話かもしれない

皮肉な話だが、相手のルールを飲んでの試合をしてきたのはむしろ那須川天心だったりする

ムエタイ現役王者:ワンチャローンと戦うにしてもムエタイルールで戦っている

その後の VS スアキムもムエタイルール


RIZINにMMAでオファーされ、ほぼ未経験で参戦したのも有名な話だ
育成枠の対戦相手ではあったものの、腕十字を取られそうになるなどリスクの高い戦いであった

VS メイウェザーも有名であるが、「階級上」「ボクシングルール」で戦いに挑んだ

この試合(エキシビジョン)に関しては、常識ある格闘技ファンなら最初から負けることはわかっており、本人もわかっていただろう

無敗レコードを積み上げている那須川天心が、ボロ負けする姿を大晦日地上波メインで大衆の前に流すという条件の試合を受けるチャレンジ精神には驚愕した

どちらがいいというわけではないが、K-1を始め、まともなプロモーションならこの試合は組まないし受けないだろう

ただ、本題に戻ると、「相手のルールを受けるのがカッコいいんだ」という主張を切り取るならば、むしろ那須川天心の経歴に惹かれるのではなかろうか

結果、両方カッコよかったじゃダメ?

総論としては、冒頭の意見に戻る

この試合は最高であった

実現に当たっては、どちらサイドにも不満があり喜びがあり主張があっただろう

結果としてお互いが満足できる折衷案にたどり着いたわけで、有利も不利もない戦いが行われた

この試合を実現させるために、「K-1の世界の中で一番を決めること」=「他団体・他競技選手ともK-1ルールで戦うこと」のこだわりを捨てたK-1・武尊

この試合に勝つために、「相手のルールに合わせる」チャレンジ精神よりも、ルール調整にこだわった那須川天心

ある意味では武尊はこれまでの那須川天心に近づき、那須川天心はこれまでの武尊に近づくという文字通りの歩み寄りが行われたと言える

結果、興行も試合も最高の盛り上がりを見せ、勝ち負け関係なく両選手が評価を上げた
双方の強さはより明確になり、両選手の次のアクションはより楽しみになった

10年後には「天心VS武尊」を見て格闘技を始めたという選手が台頭してくることも間違いないだろう

多くの人がそのように感じて、少数派が未だに不満を叫んでいる
タラレバを語るのは格闘技の醍醐味の一つではあるが、願わくば偉大な両選手のどちらかを落とすことなく語られることを願うばかりである

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