【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.23
〜心臓喰らいの隠れ家〜
モコモコとした悪趣味な毛皮を羽織った男は、真っ赤な革張りの高級な椅子に腰かけ優雅に葉巻を吸っていました。
撫で付けられた真っ黒な髪は肩にまで達しており、またその瞳は知的な光を放っています。
古く趣のある蓄音機から聞こえてくるのはいつの時代のクラシックでしょうか。
その男は満足げに葉巻の煙を燻らすと、ガチャリと開いた扉の方を振り返ることはせずに微笑みました。
「いやー、貴方は素晴らしい。今までの愚かな奴らとはやはり違いましたね。さすが、かの有名な実業家さんだ。私は嬉しいですよ」
サイドテーブルには空のワイングラスが置かれています。
その男が上機嫌にそのグラスを手に取ると、みるみるうちに赤い液体が沸き立ちました。
「あぁ」
その真っ赤な液体を口に含んだ男は少しの間、口の中で遊ばせた後、ゆっくりと飲み込みました。
満足げに口元を緩めたその男はゆっくりと椅子を回転させると、扉の前に静かに佇んでいた男に告げました。
「ありがとう。ディアボロ伯爵。君はよく働いてくれた。・・・ところで、君にふさわしいワインだね。とても芳醇ですばらしい年だ」
その男はそう言って手にしていたグラスを掲げました。
「あっ、あっ」
ディアボロと呼ばれたその男は口をパクパクとしまるで金縛りにあっているかのようです。
ふふふ、と笑みをこぼしたその男は伯爵に向かってそっと手招きをしました。
まるで操り人形のようにぎこちなくゆっくりと前へ歩き出す伯爵。
その目は悪夢に取り憑かれたかのように恐怖に震え、額には大量の汗が浮かんでいます。
「伯爵。貴方は素晴らしい方だ。賢いだけでなくその心根は優しく慈愛に溢れている。そして何より、美しい」
うっとりとした表情で目と鼻の先の伯爵を眺める男は思わず舌なめずりをしています。
伯爵の目が飛び出さんばかりに恐怖に震え、ついにはカッと身開かれました。
「あぁ。なんと素晴らしい・・・」
じゅるり、と手についた血を舐め上げたその男の目は、机の上に置かれた照明に照らされ恍惚に輝いています。
「はぁ。・・・お前たち、この方を返してやりなさい。もう彼は十分に働いてくれた」
大きな人型の黒い影が二つ、どこからともなく現れたかと思うと、胸を押さえ地面にうつ伏せに突っ伏している伯爵を抱え上げました。
どこからともなくナプキンを取り出したその男は口元についた血を拭うと、部屋から運び出される伯爵を満足げに見送りました。
蓄音機からは哀しげなバラッドが流れています。
心地よさそうにその音に体を揺らしていたその男は、伯爵を運び出した大きな黒い影のかたわれを改めて呼びつけると、こう口にしました。
「彼女たちはまた後日にする。それまでしっかりとおもてなしをするように」
静かに影の中へと消えていくその人型の影を見送ると、その男は上機嫌に葉巻を加え、ゆったりと音楽にその身を任せました。
「この胸の高鳴り。あぁ、人生って素晴らしい」
ふふふ、と一人ほくそ笑んだ男のその瞳は無邪気にキラキラと輝いていました。
続く。