「原稿用紙一枚分の物語」#11 最後の笑顔
婚約して間もなく、不幸にも彼女は癌にかかり、
余命半年の宣告を受けた。
彼は少しでも長く一緒に居たくて、病院に通い詰めた。
「今日は楽しいこと、何かあった?」
彼が顔を見せると最初にこう質問をする。
しかし毎回彼は、“別にないよ”とつまらなそうに答える。
本当は何もないはずはなかった。
それでも、どんなことだろうと
閉鎖された空間で思うようなことができない彼女にとって
酷のような気がしてならなかった。
ある日、彼女が“気を遣ってくれるのはうれしいんだけど…でもね”
と言ったあと、
「私のせいでね…ヒロキの人生が
不幸になっちゃったんだなぁ…ってね…思っちゃうんだ」
と、俯いて涙を堪えながら話した。
彼は自分の思い込みを後悔し、彼女に謝った。
それからは、本当にいろいろな話をした。
泣いたり笑ったり、あっという間に半年が過ぎた。
「一緒にいられて、楽しかったね」
その最後の言葉は、彼女の最高の笑顔だった。