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『千夜千字物語』その28~死神

「お前の命もあとわずかだ」
突然ヒロシの前に死神が現れそう言った。
「はあ?何言ってんだこいつ」
死神を前に全く狼狽えずに言うと、
「虚勢を張っていられるのは今のうちだけだ。
 あと1週間もすればお前はこの世にいない」
「マジで言ってんの?」
少し不安に駆られるヒロシに
「チャンスをやろうか?」
そう言って、ヒロシの前にある映像を映し出した。
それはサッカーをしているアキラだった。
「この少年の命を差し出せ。
 そうすればお前の命は取らずにおこう」
「バカ言うな!アキラはオレの友達だ」
怒るヒロシのことはお構い無しに
「1ヶ月だ。その間にこいつの命をもってこい」
そう言って去って行った。

学校へ行くとアキラが声を掛けてきた。
「どうした、何かあった?」
蒼ざめたヒロシの顔を見て心配そうに尋ねた。
(こいつの命と引き換えなのか)
ヒロシはアキラの顔を
まじまじと見つめて思った。
「何でもない」
少しでもそう考えたことで
罪悪感が押し寄せた。

志望高校への入学も決まり
あとは卒業を残すだけとなった今、
もう人生が終わると思うと
ただただ絶望感しかなかった。
それでも死神は毎日のように現れ
ヒロシの最後をカウントダウンしていく。
「あと2日だぞ。覚悟はいいか?」
答えられないヒロシを前に
「それではこれではどうだ?」
またヒロシの前に映像を映し出した。
アキラが病院に担ぎ込まれ、
医者が余命幾ばくもないことを家族に告げていた。
「マジか!」
ヒロシはショックを受けたが、
同時に邪まな考えが頭をよぎった。
(ダメだ)
もう心がぐちゃぐちゃで
何が何だかわからなくなった。
悩んでいるうちに
いつの間にか寝てしまっていたようだった。

夢を見た。
高校で大好きな野球をやったり
恋人とデートしたり、
就職して結婚して子供が生まれて、
決して特別な人生ではないけれど
幸せに暮らしている。
涙が溢れた。

約束の日がやって来た。
「あいつの命は持ってきたか?」
「それはできない」
そこへアキラがやって来た。
「実はこの前、話を聞いていたんだ」
そう言うと死神に向かって
「俺の命をやる」
と宣言した。
ヒロシが止めるとアキラは
「今日死のうが、いつ死のうが、
 お前のこれからに比べれば大差ない」
と言った。すると死神は
「ならば遠慮なく」
と言って手に持つ鎌を振り下ろした。
ヒロシはアキラを突き飛ばし、
鎌はヒロシを引き裂いた。

「ごめん。俺、これからずっと
 お前の命を背負って生きていくなんて、
 とても耐えられそうにない」

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