『千夜千字物語』その13~待ち合わせ
「今度の休みは?」
「悪ぃ、休日出勤だわ」
付き合って3年が経とうとしていた。
最近ろくに会えていない。
安心しきっているのか冷めてきたのかわからないが、
チエはずっと寂しさを感じていた。
「大丈夫?」
会社の先輩に声をかけられた。
「飯でもどう?」
「本当に大丈夫ですから」
彼氏への不安を見透かされないよう
明るく振舞って断った。
先輩が自分に好意があるのは知っていた。
でも彼氏がいることも、
好意のないことも気付いているはずなのに
たまに誘ってくる。
一度くらいはいいのだが、
変に噂されるのも勘違いされるのも避けたかった。
久し振りにシュウジと会った。
ホッとするのも束の間、
何となく心ここにあらずの彼に不安を覚えた。
チエはタイミングを見計らって
先輩によく誘われる話をしてみたが、
「そうなんだ。気をつけろよ」
と、怒るとか心配するでもなく
あっさりと答えるだけ。
デート中のシュウジは終始こんな感じだった。
チエの心は萎えていった。
「これでダメなら…」と
最後の賭けに出ることを決め、
金曜の夜にどうしてもデートがしたいとお願いした。
「まあ、いいよ」
「じゃあ、絶対遅刻しないでね!」
約束できたことに喜んだ。
というのも先日、
先輩から金曜の夜の誘いを受けていた。
「来るまで待つ。来なかったら諦める」と
これが最後にすると言ったのだ。
だからシュウジが来なかったら
先輩に会おうと決めていたからだ。
金曜日夜。
チエの願いも叶わず
待合せ時間が過ぎてしまった。
チエはタガが外れて
その場に座り込んでしまった。
そして立ち直り、
無感情のまま先輩のもとへ歩きだした。
シュウジが着いたのは20分後だった。
チエが見当たらないので
「絶対…」と言っていたのを思い出した。
不安が襲い、急いでチエに電話をしたが出ない。
すると、チエのSNSが更新された知らせが届いた。
投稿された写真を見る。
写った風景から位置を割り出して走った。
向かう途中にまた更新の知らせが届いた。
次々に投稿される写真から
チエのいる場所を探していった。
チエはとぼとぼと歩きながら
「先輩優しそうだし、
きっと大事にしてくれるよね」
自分を説得するように呟いた
角を曲がっていけば待ち合わせの場所。
遠くのほうで先輩が見えた。
その時、手前の角から誰かが飛び出してきた。
息を切らしたシュウジだった。
チエを見つけると
「チエー!」と叫びながら走ってきて、
勢いよく抱きしめた。
「遅いよー、シュウジ」
一気に涙が出た。
「ごめん」