「原稿用紙一枚分の物語」#9 帰省
「また、帰って来んの?」
母からの留守番電話だ。ゴールデンウイーク、盆と正月、
大型連休を迎える頃になるとメッセージが入る。
三十路の私は、もう三年帰省していない。
別に仕事が忙しいわけじゃない。
特別に一緒に過ごせる人がいるわけでもない。
実家でのんびりしたい。同級生に会いたい。
それでも帰らないのは、私が独身だからだ。
母も、地元も、「女の幸せ=結婚」の考えがまだまだ根付いている。
帰れば、「まだ結婚せんの?」の往復ビンタ。
友と話しをすれば旦那や、子供の話ばかりで疎外感しかない。
やりたいことがあるわけでもない。
仕事も恋愛もまずまずで、充実しているわけではないが、
まあ毎日つまらなくもない。
ただ自分にとっての幸せなんて考えずに、気が付けば三十歳。
同級生を見れば結婚も悪くない。
でもまずは不満をひとつずつつぶしてみようと、
スマホを手に取り、
なかなか言い出せなかった「別れましょう」を不倫相手に送った。