ベースフード社の事例から、食品の安全と安心を語ろう
ちょっと話題があるうちにシュバって書いてしまうことにしました。
はじめに言っておくと、僕はBASE BREADの愛用者です。全種類食べたうえで、チョコレート味しか食べ続けられないと思ったのでチョコレート味しか食べていませんが、おそらくこの記事を読んでいる大多数の方よりBASE BREADを食べてきたと思います。
案の定今回の件では「あれ大丈夫?」という反応を受けました。チョコレート味は回収対象じゃないので大丈夫です。ありがとうございます。
さて、今回のカビ騒動はXへの投稿が発端でした。ペヤング騒動が懐かしいですが、最近の食品問題はSNSへの投稿が発端になることが多いです。
一昔前なら、お客様受付に言うのも面倒くさいと放置されてた事例もあると思いますが、今は手元でポチポチっと数百万人にいきなり拡散される時代です。今まで以上に、食品企業には品質と炎上対策が必要な時代でしょう。
では、今回の件を振り返りながら「食品の安全と安心」というものについても語っていきたいと思います。一応これだけで読み物としては成立しますが、今後のベースフード社の展望(特に投資方面)についても有料部分で語っていきます。
1.時系列と対応のスピードについて
今回の出来事を振り返るとこんな感じです。
10/20(金) Xでの投稿
10/20(金) カビ発生事案の認識
10/23(月) 告知・返金対応、購入制限のお知らせ
10/24(火) 自主回収のお知らせ
さて、このスピード感は果たしてどうでしょうか。
食品メーカーの自分から見ると、遅すぎるなと思います。
対比として、最近おにぎりにゴキブリ混入を起こしたわらべや日洋社の対応を見てみましょう。
8/3(木) Xでの投稿
8/4(金) 自主回収のお知らせ
まさに、求められるのはこのスピード感です。
やってしまったことはアレですが、危機管理の対応としてはほぼ満点だと思います。即発信者に連絡、かつ即自主回収。これを1日以内にやるのは、仕組み化が行き届いている証左となります。
これと比較すると、やはり初動はかなり悪かったと言えるでしょう。これを見てしまうと、土日休んでから対応という形にも見えてしまいます。それはないと思いますが、だとしたら正直ちょっとあり得ません。
そしてまた悪いことに、こういうインタビュー受けちゃってるんですよね社長。まさかこの事態で土日仕事してないとは思いませんが、株主総会等での追及は免れないところでしょう。
2.対応は適切だったか?
私がこの話を通じた時の所感はこんな感じでした。
案の定というか、結局自主回収になりました。そりゃなるよね。
なぜなら、これは健康被害が出る話だからです。
カビの中には非常に強い毒素を持つものがあります。そんなものが出てきた以上、当該ロットの他の品で同じことが起こってない可能性は証明できません。
消費者の誰もがメーカーのHPやSNSを見るわけではありません。知らずに食べてしまう方も出てしまうかもしれません(世の中広いので、カビてる部分を外せば食べられると思う人とかいるのよ……)。ですので、物理的に商品を店頭から外すしかありません。
今回は、初手で自主回収以外手はなかったのです。
ただ一つ言うなら、今回の件はベースフードにとって初めての大規模品質事故になると思います。今をときめく大企業がそんな危機管理が出来るのは、自分たちも過去に派手にやらかした歴史があるからです。他社事案でも、雪印乳業の食中毒事件とか見ています。あの雪印乳業という巨人が倒れてしまうほど、品質事故のダメージとそのコントロール失敗によるダメージは大きいので。
品質の向上とか製造ノウハウの蓄積というのは、悲しいかな問題が発生した時に大きく伸びるのです。長く続いている食品会社の一番の強みはそこかもしれません。ぜひ今回の件を糧に、ベースフード社には品質の向上を図っていただきたいです。
3.商品の特性から振り返る
ツイてなかったのは、なまじ日持ちする商品だったのでリコール範囲が広がってしまったことでしょう。普通のパンであればそこまで賞味期限が長くないので影響も限定的だったと思いますが、D2Cのビジネスモデルでは賞味期限を長くしなければいけなかった。
その分影響も広がってしまったと。
パンの設計としては結構堅牢なんですよね。アルコールとかも入ってるので。ベースフード社の場合はEコマースが重要な販路の一つだったし、量も出ないから日持ちは優先順位として高かったのでしょう。
というのが今のところは公式見解なので、まだ原因の究明は続いているところなのだろうなと思いつつ、包材の強化は必要になるでしょう。てか今の包材、酸素バリア性ないと思うんですよね。
あと封入の脱酸素剤って意外に扱いが難しくて、袋開けたままちょっと放置するだけで発熱して酸素吸収能がなくなるんですよね。その辺を分からない人が作業しちゃったとかいう可能性はあるかも。
この辺りは続報待ちですね。
※11/19時点、IRで会社への影響は出ていますが、原因については公表されていません。虫混とは違って原因がいくつか考えられるから、公表してほしいなぁ……。
4.食品の安全と安心とは
こうした事故を起こした時の判断基準というのは安全と安心に他ならないのです。厳しい言い方ですが、そこを理解していれば、自主回収の判断はもっと速やかにできたはずでしょう。
以下が不良品の発生率ですが、これを見てどう思うでしょうか。
10/28賞味期限品の不良発生率は0.08%です。これが高いか低いかで言えば、業界の常識としてはバカ高いです。たとえば弊社ではこれよりもっと起こりうる小さいクレームについても、発生確率はppm(1%の10,000分の1)で表しますからね。800ppmはちょっと脱力しちゃう感じです。
ただ、こう思った人も多いかもしれません。
「99%以上は良品なんだから、回収なんていらないのでは?」
結論を先に言うと、ダメです。
理由は「その商品は安全かもしれないが、安心できる商品ではない」からです。
「食の安全と安心」。良く使われる言葉ではありますが、安全とは科学的に安全であることです。では「安心」とはなんでしょうか。
当然ながら「安心」は「安全」によって担保されるものです。
食品メーカーは美味しさや機能を追求しますが、安全というのはそのはるか前、大前提になります。
ですので、いくつもの試験を経たうえで『「健康に害はない」ことを確認したうえで製品をリリースします。なので安心してお召し上がりください』そう思って商品を発売しています。
もしかしたら、ある商品を見て「食品添加物がこんなに入ってる商品のどこが安全・安心だ!」みたいに思われる方もいるかもしれません。
ですが、ここで言う「安全・安心」は、そういうお気持ちとは趣旨が違います。
「安全」は国によって科学的に立証された上で定められた原料・殺菌工程等を経て製造されたものであること。
「安心」とは、認められた安全な原料が使用され、各社で定めた安全を担保する製造工程によって作られていること、を指します。
食品添加物は国によって許可されている以上、各社の判断で使用することは「安全」を国によって科学的に担保されています。
その原料を使用していることを食品表示によって明示することで「安心」を担保しています。
それを見て、買うか買わないかは消費者それぞれの判断にゆだねることになります。
さて、では今回のケースはどうかというと、安心を担保できていません。
なぜなら「安全を担保する製造工程によって作られていない」からです。
当初定めた製造工程が守られていればパンがカビることなどないはず。
でもカビが生えてしまったということは、その製造日は絶対に、そしてその製造日の前後も、製造工程が守られている保証がない。
だから「安心」な商品ではない。
食の安全・安心とは、製造メーカーと消費者との信頼の話なのです。
さて、ではこれが守られていない全ての商品は自主回収すべきかというと、程度によるというのが正直なところでしょう。
例えば、原料メーカーが原産国をアメリカからブラジルに変えていたが、それを見落としていて表示は「◎◎(アメリカ産)」のままだった。このケースは、それによる健康被害がなければお詫び・返品対応くらいなのかなと思います。
今回自主回収になったのは、健康被害が出る可能性があるからです。今回のような腐敗・変質、異物混入、殺菌不良などが原因のケースは自主回収コースですね。
以上、ベースフード社の事例から考える、食品の安全と安心でした。
では、本件を経たうえでのベースフード社の今後の展望はどうか。これについては相当に憶測を含むのと、株を買う・買わないみたいな話をしたいので、有料にしたいと思います。食品メーカーの人間から見たファンダの話が中心なので、切り口としては珍しい角度から切り込んでると思います。
値段は本日10/26の終値447円にセットしました。今後変更予定。
11/17終値の480円としました。
なお結論は、
「底打ちが見えたら株は買いたい」
になります。
※11/19追記
現在の状況としては「買い下がりしてもいいからもう少し強く買いたい」と思っています。
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