薬膳cafe五花 6月:あじさいゼリー #7
今日のランチはもう終了かな…
時計を見ると14時を回っている。
5月から昼と夜に営業時間を分けて、昼営業は15時までとしている。
ここ数日、連日雨模様で来店者も少なめだ。
窓を見ると、雨粒がガラス窓を叩き雫がつたっている。
シトシト……
ザーザー……
ポツポツ……
雨音が響き、天然のヒーリングミュージックだ。
お客様がいない時は、BGMを消して静かに雨音を聴きながら、仕事をしている。
なんか身体が重だるいなー。
雨は嫌いじゃないけど、ちょっと憂鬱…。
この時期だから仕方ないな。
心の中でボヤきながら食器を洗っていると不意にドアベルが鳴った。
カランカラン……
あっ、なつめさんだ。
いつもお店に来てくれるなつめさんが手でドアを押さえて、もう1人高齢の女性が入ってきた。
前にも一度一緒に来られたなつめさんのお母様だった。
優しげな目元と洗練された雰囲気が似ている。
「いらっしゃいませ」
「まだ、大丈夫ですか?デザートだけいただきたくて」
「もちろん。大丈夫ですよ〜」
「よかったね」
なつめさんが言うとお母様もにっこり微笑んだ。
そして「家の庭の紫陽花なんです」と包装紙に包まれた、花束を手渡してくれた。
「えっ、ほんとですか?ピンクと白と…青色のはアナベルですか?わぁ……きれいですね。ありがとうございます」
優しい心遣いに、ふっと気持ちがほぐれた。
𓂃◌𓈒𓐍
「どうぞ。あじさいゼリーです。杏仁豆腐とバタフライピー のゼリーの二層で緑豆をトッピングしています」
「ほんとだぁ、綺麗。お母さんあじさいゼリーだって」
「まぁ。綺麗な色」
「この綺麗な青と紫のゼリーの部分がバタフライピー なんですか?」
なつめさんが覗き込みながら聞いてきた。
「そうなんです。バタフライピー というハーブのお茶です。最初は青いんですけど、レモン汁を加えると紫色になるんです」
「そうなんだ〜。おかあさん。これ。バタフライピー ってハーブ使ってるんだって」
お母様の耳元で大きな声で伝えている。
「ん?バター?」
「バ タ フ ラ イ ピー」
「ふうん。なんだかわかんないわ」
お母様はそう言って少しいたずらっぽく笑った。
「ごめんなさい。うちの母ちょっと耳が遠くて」
「いえいえ。とんでもないです」
「大声で話すから、たまに母を怒ってるように見られる事もあって」
すごくよくわかる。
今は離れているが私と母も同じ状況だ。
私は黙ってうんうんとうなずいて聞いていた。
「なつめさん、とってもお優しいですよ」とそっと言った。
私を見るなつめさんの目がうっすら潤んでいる。
「あっ、そうだ。紫陽花のお花!!」
花瓶に生けた紫陽花を取りに行き、テーブル席に置いた。
「あらぁ」
ふたりの顔がぱっと華やいだ。
「なつめさん、お母様と一緒に写真撮りません?」
「わぁ。ありがとうございます!お願いしようかな。お母さん、しゃしん 撮るって。しゃ し ん」
「まぁ。どうしましょう」
なつめさんのスマホで、紫陽花とゼリーが並ぶテーブルを挟んで、ツーショット写真を撮った。
2人ともとてもいい笑顔だ。
「ゆっくり召し上がってくださいね。ひんやりしてるので、温かい黒豆茶も持ってきますね」
コポコポコポ……
キッチンに戻り熱い香ばしい黒豆茶を注いだ。
𓂃◌𓈒𓐍
ちょうど3時を回る頃、お見送りをした。
「お母さん、また来ようね」
「うん。ここは夜もやっているのね?」
「そうなんです。また、今度、夜も、来てください」
私もできるだけ大きくゆっくり伝える。
「はい。ありがとう。
あなたは、キクチくんと来てるのね?」
お母様がなつめさんの方を向き、言った。
キ、キク……
あっ。きくらげさんのことね!
………あ〜
私はなんとなく察した。
不意打ちになつめさんは慌てて
「お母さん、なに言ってんの。一緒になんて来てないよ」と軽く腕を叩いている。
少し赤くなってるなつめさんがかわいい。
「あら、そうかい」
とお母様が言うと
「あは、あは、あはははははは!」
なつめさんが照れたのか、突然笑い出したので、私もぷっと吹き出し、一緒に顔を見合わせて笑ってしまった。
お母様は最初は不思議そうに見ていたがつられて笑っている。
落ち着いたところでゆっくりドアを開けた。
「まだ降ってますねぇ。湿気で体調崩しやすいですから、どうかお気をつけて」
傘が開くのを待って伝えた。
「ありがとうございます」
なつめさんもお母様も傘の下で微笑んで帰られた。
少し外に出ただけだが、もわっとした湿気が肌にまとわりつく。
片付けてから母に電話しようかな。
ドアにかけたプレートをcloseに変えながら私は思った。
◯薬膳memo◯
●バタフライピー とは
𖤐豆科の植物で日本名は蝶豆(ちょうまめ)
𖤐綺麗な青い花を咲かせハーブティーなどに使われる
𖤐青い花にアントシアニンが含まれている
𖤐アントシアニンは抗酸化物質で身体の酸化を抑える(眼精疲労や美肌にかかせないコラーゲン生成に期待)
𖤐薬膳では温性(身体を温める)
𖤐肝に帰経
●杏仁豆腐の杏仁…あんずの種を粉にしたもの(杏仁霜)を苦味を消すために甘くしている
𖤐薬膳で杏仁は、肺を潤す、咳の症状を軽くする効果が期待出来る
●緑豆…蒸し蒸しした夏におすすめ食材。薬膳では、身体の余分な熱をとる、利尿作用でむくみに良いとされる。緑豆もやしや緑豆春雨で手頃に食べられる
●黒豆茶…腎と脾の機能を養う。老化対策や胃腸虚弱の人におすすめ。アンチエイジングや、冷え、むくみの対策に。