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ITサービスの品質デザインについて考える(前編)

あなたはITサービスの品質を設計せよ、と言われたら、どんなことを考えるだろうか?

ITに限らず、サービス全般と言い換えても構わないが、顧客に何らかの価値を提供するサービスを設計する時、その品質をどのように設計するのか、という問題は重要である。

筆者はこれまでの仕事の中で、複数のグローバルITサービス企業においてサービスを提供する立場で仕事をして来た。その中で考えて来たことを本稿(前後編)においてシェアしたいと思う。

最初に、グローバルサービスを提供する欧米の企業の考え方について。特に過去30年においてグローバルなITサービスを展開してきたテック企業においては、インターネットを前提として世界中にサービスを展開するビジネスモデルを構築して来たため、その品質管理の指標はあくまでグローバル市場における最大公約数的な考え方で定義されている。

多くのITサービス企業は公開の品質目標としてSLA(Service Level Agreement、サービスレベル合意)というものを定義しており、これはサービスの稼働率としてある数値を顧客との契約の中で合意する、というものである。例えば、1ヶ月のサービス稼働率が99.999%を下回った場合は返金対象となります、という具合である。

このように、数値化可能な指標を品質指標として定義し、管理することがグローバルサービスにおける対顧客向けの品質管理指標となっていることが多い。もちろん、社内の品質管理指標も存在する(例えば、障害対応のレスポンスタイムなど)が、いずれも数値化可能な指標である。

かたや日本企業、特に戦後復興期から高度成長期、バブルを経て平成不況の間を生き抜いてきた伝統的な企業群というのは、数値化可能な指標のみならず定性的な品質管理も含めて重要視してきた経緯がある。その一つとして、数値化や明文化されないが伝統的に守り続けられている企業内の慣習、といったものがある。終身雇用とジョブローテーションは、それぞれの企業内におけるローカルなビジネスの進め方に対する練磨と熟達を可能にした。同時にそれは、極めてハイコンテキストな企業内文化を作り出したとも言える。その意味においても、日本、そして各日本企業はガラパゴス化してしまった。

これは、グローバル市場における最大公約数の計算に基づき均質なサービスを提供することを指向するグローバルサービス企業の考え方とは大きく異なる。日本においてはそれぞれの企業が育んできた企業内文化に合う形でサービスを導入することが大切なのであって、紋切り型のサービスは受け入れられないのである。だからこそ、サービスをカスタマイズすることが必須とされてきた。各企業のビジネス要件と品質指標に基づいてサービスを修正することが求められたのである。

要するに日本企業が求めている品質というものは、グローバルサービスからは提供され得ないものであるという理解が必要であるということである。

フラット化した世界、プラットフォームに支配された世界においては、サービス品質は均質化の一途を辿るものであり、この変化に適応できないものは淘汰されていく定めであろう。多くのサービスユーザー企業が選択の余地のない状況に追い込まれつつある。

個別にカスタマイズされたシステムを構築することでビジネス要件を実現する時代は終わりを迎えつつあり、グローバルスタンダードに則って用意されたサービス、例えばSaaSを組み合わせて自社のビジネス要件を実現可能にするシステムのポートフォリオを用意しつつ、ある程度はみ出すなら業務の方をテーラーしていくことも必要となっているのである。

(後編に続く)


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