短編小説:日本の終末

6月の平日、午後3時を過ぎた頃。ぱらぱらと音を立てた小さな雨と、ゴロゴロと鳴り響くどす黒い雲。右手でビニール傘を差し、左手でコンビニで買った物をレジ袋に入れて、ある場所に向かって歩いていた。


1週間前、突然発表された日本の植民地化。移民の受け入れを行った結果、日本人の人口より移民の人口が上回ってしまった。選挙による投票で、数の少ない日本人が勝てるはずもなく内閣総理大臣や国会議員等が軒並み移民に入れ替わってしまったのだ。その結果、日本は他国と合併する形と発表されたが、実質的な日本の植民地時代が始まってしまった。

恐らくだが、もう明るい時代は来ないだろう。反日本軍やら、現内閣総理大臣の暗殺やらと、生き残っている日本人は裏で何かを企んでいる。挙げ句の果てには「100年越しの大和魂」という物騒なスローガンを掲げる始末だ。自分の老い先が短いことくらい分かる。徴兵か空襲かで死ぬことくらいは容易に想像できる。死に場所くらいは自分で決めたい、そう思うと、自然に家を出ていた。

「やっと着いた。」
僕が向かっていたのは、墓場である。周りは木々に囲まれているが、かなり大きな墓場なため今は人が寄りつかない。空襲の格好の的であるからだ。着いて早々、線香やお花などを忘れてしまったことに気付いたが、引き返すことはしなかった。目当ての墓はすぐに見つかった。墓石には他に誰も来ていないのか、お世辞にも綺麗と言えなかった。石は本来の輝きを失い、側に煙草の吸い殻が落ちていた。僕はそれを尻目に傘を閉じてレジ袋をまさぐり、2本の三ツ矢サイダーを手にした。墓石に向かい合うように座り、1本は供えて1本は手に持った。

「久しぶり、アキ。中々来れなくてごめんね。」

そう言いながらペットボトルの蓋を開けて、チビっとひと口だけ飲んだ。しゅわしゅわした痛みが喉を通り、口の中は甘ったるい。

「アキの好きな三ツ矢サイダーを持ってきた。面倒だったから、次はアキがなにか持って来てくれ。」

そう言ったあと、もうひと口飲んで蓋を閉めた。そうか。君はずっと19歳のままだけど、僕はもうすぐ22歳になる。もう、あれから3年になるのか。

ふぅっと息をついたあと、飲みかけのペットボトルを放り、腰に手を当てる。ホルスターに備わったリボルバーの拳銃と弾を取り出して、弾をもう1発込める。

「君を殺した移民を恨んでいる。その移民達に、国まで奪われたよ、酷い話だ。ねぇアキ、君となら、この腐った世界でも生きていけたかな?」

そう言いながら、僕は墓石に向かって引き金を引いた。発砲音が響くのと同時に弾丸は墓石に刺さり、耳がきぃんと痛くなった。長い雨音が墓場を包んだあと、僕は口を開く。

「やっぱり。移民と同じことをしても、なぜ移民が君の命を奪ったのか理解出来ない。墓石とはいえ、僕の手には罪悪感が残っているよ。」

そう言いながら、火薬の匂いがする銃口を、自分のこめかみに押し当てる。銃口はほんのり熱く、引き金を引く指は軽かった。

ーーーーーーーーーーーーいま、そっちにいくよ



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