賞味期限と高齢者
絶賛一人暮らし中の82歳の実チチ。
健啖家だった彼もさすがに年で、そんなにたくさん食べなくなった。その彼が気にしているのが期限だ。
一人暮らしを始めてからやっと賞味期限と消費期限の存在を知ったのだが、それ以来はスーパーでチェックして買うようにしているという。なぜなら欲張ってあれこれ買ってしまうと、賞味期限があっという間に迫ってきて、その期限に追われることになるからだ。(それを彼は「期限の不自由」と言っていた)
年末に骨粗しょう症で圧迫骨折をした彼は、牛乳をたくさん飲むようにしているのだが、朝と昼をパン食にしているため、小さいパックではすぐなくなるので、大きい普通のパックを買っている。
しかし、ちょっと食欲なかったり、お腹がゴロゴロしていてあまり飲まない日が続くと、すぐに牛乳の期限がすぐそこに迫ってくるのだという。
食欲の減退やお腹の調子は、弱っている高齢者には調整できないらしく、薬を飲んだり食べ物変えたりと工夫をするけれど、大して効かないらしい。本人曰く、もうそんな体になったんだなぁ、と。
父の家に行った時、一緒に買物に行くのだが、重いものをもってくれる娘がきたからと、必ず牛乳とオレンジジュースの大きなパックをまとめて買う。まだ冷蔵庫にあっても、杖をついてのろのろと力なく歩く高齢者には、パック1つでもかなり重いし、今時期の雨降りだと、傘と杖と荷物の3つでは2つの手は足りないし、足元がおぼつかないらしい。
一緒に買物に行っても、私は荷物運びしか手伝わないようにしており、彼が自分でメモを見て、自分で商品を手にする。そんな時に、牛乳パックの前に少しかがんで頭に書いてある賞味期限を見て、奥の方から先の賞味期限のものを掘りおこしてくる。
最初はたかが差は1日だし、陳列しているスーパーにも、買い物している人や周りにも迷惑じゃないかと言ったのだけど、「じゃあ、賞味期限切れて悪くなっている牛乳飲んでお腹悪くして、困るのは誰?」と聞き返された。
一番困るのは父本人だろうけど、さすがに病気になったとか、具合が悪いとなったら、私も放置しておくわけにはいかない・・・か。
スーパーや他の人に迷惑もわかっているけど、これ以上の迷惑をかけることになるのを防いでいるんだからさ、というのが彼の言い分だ。
ぐうの音も出なかった。
「慣れてるから、もたもたせずささっと取り出してるし」と得意げなのは鼻についたけど。
その後、うちの近所のスーパーで賞味期限の小さな文字を探している老人や、後ろから取り出そうとしている高齢者を見かけたら、文字は読んであげるし、取り出しやすいように、前のものをさっと私が買ったりしている。あくまでもささっとさりげなく、そして話しかけられる前に去る。
賞味期限を気にしすぎることとか、すんごい後ろからものをとることとかを、高齢者限定で許すことにしたのだ。
ぱぱっとさくさくと若干せっかち気味に買い物をする私、かつてはそんなあれやこれやにとてもイライラしていたのに。
父のおかげか、少し私もおおらかになってきたのかもしれない。
とはいえ、高齢者しか許さないけどね。
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