ビバリウム
ビバリウム(アイルランド・デンマーク・ベルギー:2019年)
監督:ロルカン・フィネガン
出演:イモージェン・プーツ
:ジェシー・アイゼンバーグ
:ジョナサン・アリス
:セナン・ジェニングス
:エアンナ・ハードウィック
夢のマイホームを求めた恋人たちが囚われた奇妙な連環の世界で、一人の男児を青年になるまで育てさせられることとなる、とにかく不気味な怪作。子役の気持ち悪い存在感と、彼女役の名演技と相まって、ステレオタイプの建物しかない、逃げることができない世界が生理的嫌悪を掻き立てられる。最近オレ、廻って廻って廻り続ける作品ばっかり観てるな。
教師の彼女と庭師の彼氏の二人は一緒に暮らす家を求めてある不動産屋を訪れる。エキセントリックな不動産屋に半ば強引に勧められてある物件を内覧。そこは同じような家が立ち並ぶ建売団地のようだった。怪しさを感じた二人は帰ろうとするが、不動産屋は忽然と姿を消しており、帰ろうと車を進ませても何度もさっきの住宅へと戻ってきてしまう。脱出のめどは立たず、無理やり火を点けて住宅を家事にさせる。翌朝路上で眠りこけていた二人の眼の間に段ボール箱が置かれていた。中には男の子の赤ん坊がおり、メモには「この子を育て上げれば自由になれる」と書かれていた。怪訝な二人の前に焼け落ちたはずのあの住宅が建っており、彼らはその赤ん坊を育てて、そこで暮らすこととなる。赤ん坊は異常な速さで成長するが、行動や発達には奇怪な点が目につく。それでも二人はこの生活を続けるが、次第に追い詰められていくこととなる。
物語の舞台はある新興住宅開発地。淡いパステル色の住宅が立ち並ぶ、暮らしやすそうな住宅地だが、そこには他の住民はおらず、商店もインフラもない。朝・昼・晩の日の移り変わりはあるが、空の雲には変化はなく、季節の移ろいもなさそう。そんな無味乾燥した町に囚われてしまった二人に、何故か届く段ボール箱。中には食料や生活物資が入っており、ゴミを詰めた段ボール箱を出しておくと、いつの間にか消えているという不思議さ。見た目理想的な住宅が並んでいるのに、命をまったく感じさせない町の恐怖が伝わってくる。この町の秘密は分からないが、最後に裏の顔の一部をのぞかせるのが更に恐怖。
それ以上に怖いのが、彼女彼氏が育てることとなった少年。登場時は乳児であったが、驚異的な速さで成長し100日ぐらいでもう小学生中学年ほどに成長。さらに後半には大人の男にも成長するのだが、その行動はとにかく奇妙。彼女彼氏を粘りつくように観察し、その言動を真似する。食事を求めるときは凄まじい絶叫を上げ、満足いく量が出されるまで叫び続ける。またその絶叫する姿が、直立した姿勢で身動きしないため更に異様。TV画面に映るモノクロの訳の分らない模様を延々と観続け、画面を消すと激しく抵抗する等々、行動がおかしい。決定的なのが、彼女が物まねゲームと称して誰かの真似をさせた時。普通の人間ではありえない身体の形を見せ、ここでこの少年が人間ではない別の何かというがようやく理解できる。成長スピ-ドで気づけよと思われるが、もしかしたらと思ったので、ここでのドンデンは重要かもしれない。大人になった時のふてぶてしさと無機質さには物語のつながりを感じたが。
彼女役のイモージェン・プーツの演技は光る。急に住宅に囚われた戸惑いや、いきなり男児を育てることとなった困惑等々、右往左往することが多いが、明るく彼氏とやり取りし、時には対立、言い争い、それでも彼氏の身を案じ、教師だからか女性だからか少年にも母性をちょっと感じ、少年の異常さを感じて恐怖する姿と、コロコロと変わる変化を見事に体現していたと思う。終盤の泣き叫ぶ姿は痛烈で、ラストのセリフに彼女の抵抗が集約されているように感じた。
惜しいなと思うのが、この住宅、町の秘密が分からない。物語の真相はつかめない。ウィキペディア先生によればビバリウムとは自然の生息状態をまねて作った動植物飼養場ということで、この町は何かを人間社会に溶け込ませるために飼育するための環境かと思われる。深く探るのは野暮かもしれないが、せめて少しだけでも謎の解明が欲しい所。最後の最後でようやくこの町の裏側が少しだけ垣間見えるが、それは連環の過程が見えただけで、じゃぁなんでこの二人はここに囚われたの?って疑問が残る。
そしてまた話は繋がっていく系の展開で、物語は連環する様相を見せるが、最近この手のお話が多いのでスッキリしないし、モヤモヤが残る。きれいに終わらせて、脳内の妄想の中で話が繋がっていく展開の方がオレは好きなんだがなぁ。