コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義
コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義(香港:2016年)
監督・脚本:リョン・ロクマン、サニー・ルク
出演:アーロン・クォック
:レオン・カーフェイ
:チャーリー・ヤン
:ジャニス・ヤン
:チョウ・ユンファ
:エディ・ポン
警察車両強奪事件の捜査を裏に、香港警察のトップを争う駆け引きと、香港政界での権力を牛耳ろうとする一派の暗躍を描いた警察サスペンス。香港ノワールとは異なる正義と権力の中でもがき戦う現職の警察長官と、その長官に追われた前長官の悲しき権力への渇望が対比的で、骨太で見応えがあった良作。
前任の香港警察長官は捜査のミスとその犯罪に自身の息子が関わっていたとして、副長官から糾弾されトップの座を更迭される。が、その逮捕した前任の息子の仲間が現長官の妻を誘拐。息子の解放を要求され、現長官は取引に応じてしまう。そして息子は地下鉄で混乱に乗じて逃亡。失態を犯してしまう。前任の長官は退職前の休暇を消化していたが、そこに逃亡している息子が登場。警察組織に影響力を持った実力者を伴って現れる。実力者は今の警察長官を引きずり下ろし、前任の返り咲きのため陰謀を持ち掛ける。香港警察組織での暗闘、裏切り、陽動が繰り広げられ、かつての部下であった犯罪者とともに前任は現長官に逆襲を仕掛けていく。
よく確認すると前作があったらしい。前作では前任長官が犯罪撲滅を掲げた香港浄化作戦を展開したが、失敗し、なおかつ自身の息子が犯罪に手を染めて逮捕され、更迭されるという憂き目に逢ったらしい。それを副長官であった現長官が弾劾して、その後任に座ったという前がある。そこの確執がよく分からなかったので、途中まで前任と現長官が共闘するのだろうかと勝手に思ってしまった。しかし、繰り広げられるのは返り咲こうとする前任が、香港を牛耳ろうとする者たちと手を組み、現長官に揺さぶりをかけるというかなり政治的暗闘がヒリつく展開。最初は不遇をかこっていた前任が、実力者たちから陰謀と取引とその見返りを提示されてから、物語が動き始める。自分のために脱走を犯し、罪を重ねる息子を案じながら、彼からもらった新しい眼鏡に架け替えた時、静かな闘志の炎が眼に宿っていくのシーンに気迫が迫るものがあった。演じるレオン・カーフェイに凄味を感じる。
その対比に現長官は容姿がさわやかかつ重厚で、頼れるトップを感じる。犯罪を取り締まるために時には越法行為を犯す危険性を持つが、部下には優しく、チームをまとめ、人望もある、現代的なスマートさを強調される。妻の解放のため自ら陣頭に立ち、銃撃戦でもその身をさらして撃ち合い、主人公的要素は十分。華もある。その頼れるボスが次第に追い込まれ、更に身内にも裏切られ、組織内から追われそうになるのもハラハラして映画的盛り上がりも十分。そこから逆転しようと再び仲間や部下の力を得て、計略を仕掛けていくのも気分が上がっていく。
香港・警察・犯罪と並べるとかつての香港ノワールの暗くざらついた映像を思い出すが、現代の映像ではそのような暗さはなく、今では当たり前なドローンを使った空撮や派手なアクション映像を押しているが、多分恐らくスタントはリアル。CGではないとは思うが、トンネル内や廃車場の派手な銃撃戦や爆発はかなり大がかり。そこは昔を知る者からしたらちょっと寂しくも、伝統的なアクションもあるのでこれからも楽しみな面。チョウ・ユンファもまだまだ頑張ってくれているのでちょっと嬉しいが、今の監督さんはこの人使いにくいだろうなと勘ぐってしまう。警察組織と現長官たちを厳しく審判する法廷の弁護士という役どころだが、やっぱり存在が仰々しい。良く言えばスタイリッシュ。悪く言えばキザったらしい。現長官、前任、そして実力者たちの間に位置する割と重要な役柄なんだが、もう少しストーリーにのさばってほしかった。最後に悪は許さないというスタンスをとって消えていくのは友情出演だからかな。
そして最近、香港の作品を観て思うんだが、政治的意図がありありと感じられすぎ。特に今作は警察という公的執行組織なので、中央は香港の自治を認めないという意図が見られる。警察本庁玄関に掲げられた「アジアで最も安全な都市、香港」というサインは、アジア、世界でも最も安全な街をたくさん抱えている国民からしたら、なんでじゃとツッコまざるを得なかった。