アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲
アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲(フィンランド、ドイツ、ベルギー:2019年)
監督:ティモ・ヴオレンソラ
脚本:ダラン・マッソン、ティモ・ヴオレンソラ
出演:ララ・ロッシ
:ウラジミール・ブルラコフ
:キット・デイル
:ウド・キア
:ユリア・ディーツェ
続き物は敬遠しているのだが、久しぶりに目についたので荒唐無稽なSFが楽しみたくなり視聴。前作より映像や効果などの技術が高くなっているのだが、チープさの中に輝く魅力が半減してしまって残念に感じた作品。
2018年、地球は月面ナチスに勝利するが、核戦争を起こしてしまい壊滅してしまう。生き残った人々はかつて月面ナチスの月の基地へと移り住むが、エネルギーや資源は枯渇し始め、限界を迎えていた。そこへ地球から避難民を乗せた宇宙船が漂着。その宇宙船を作った青年はロシアからやってきたと語る。さらには避難民の中に前作で死んだはずの月面ナチスの総統が紛れ込んでいた。月面ナチス総統は自らを不死の存在と語り、地球の中は空洞で都市があり、そこに自身の不死を関連付ける巨大なエネルギーがあるという。主人公の黒人女性技術者はロシアの青年、マッチョな守備兵、スティーヴ・ジョブズを教祖と崇める一団を連れて地球の奥深くへ進入。そこには死んだはずのヒトラーが、巨大な恐竜と世界に変革をもたらした偉人たちの頂点に立って迎え撃ってきた。一行はエネルギーを手に入れることができるのか。
今作もフリークスどもがクラウドファンディングで資金を集めて作った作品なので、チープさあるのかと思ったが意外や意外、セットは重厚に組みあがっており、出てくる衣装や小道具にも本格さがある。月の元ナチスの基地の雑然としつつ閉塞感があったり、旧ドイツ軍の意匠を感じさせる守備兵の装備などカッコよさを感じた。そしてSF作品のキモとなるCGも違和感は少なく、巨大な恐竜がヌルヌルと動く様はなかなか。月面基地や宇宙船も前作より更に細かく巨大に描かれており迫力ある存在感。惜しむらくはこのCGを使ったアクションが結構淡白なところ。もうちょっと時間をとって手に汗握る攻防を見せてほしかった。
物語を動かすのは前作月面ナチスの女性科学者の娘。自身も技術者で基地のメンテナンスや宇宙船の修理などに活躍する技術オタクなキャラクター。束ねたドレッドと鼻ピアス、ランニングシャツ一丁でワイルドさに度胸と、ロシア青年とマッチョをグイグイ引っ張って行く。個性は際立つが、主役を張るには存在が弱い。映画と言えご都合がよろしすぎるから一本道過ぎて面白みに欠けた。主人公と気弱なくせに威勢はいいロシア青年、ごつくて律儀なマッチョ守備兵たち三人が、もっとあーでもない、こーでもないとガチャガチャと物語を進めれば笑いながら観えたんだが。
そんな主人公一行を襲撃するのが地下世界で生き続けていた歴史上の人物たち。ヒトラーを頂点に世界に影響を与えた超有名人が襲ってくる。鉄の女と呼ばれた英国首相やローマ法王にイスラムの大物テロリスト、超有名SNS開発者マーク・ザッカーバーグなんか存命中の人物も現れる(物語は2047年の設定)。そのなかで眼を引くのがリンゴ印のメーカー創業者のスティーヴ・ジョブズ。あのいつもの変わらない衣装で襲ってくるが、正直ジョブズが飛んだり跳ねたり襲ってくることに自分のイメージが繋がらないので意外性を感じなければ驚きもない。ジョブズのカンフーポーズなんて面白くもない。そのジョブズを崇める一団は間抜けに殺されてしまうが、そのためにわざわざ用意した設定のようで面白みがない。作中でも犠牲要員とコケにされていたが。
前作ではヒロイン、ユリア・ディーツェがほぼ脇役扱い。そりゃ30数年後が舞台だし、子供がいて母になり老婆になるのは仕方がないが、訳の分らんエネルギーを摂取して若返り、アクションを繰り広げるのは唐突過ぎた。若返った姿は素の容姿なのも残念。前作のナチのSSの黒い軍装の退廃的な美しさがたまらなかったのに…。
前作の評判からクラウドファンディングで妙にお金が入ったせいか力を入れたシーン・演出はよかったが、反対にB級さに磨きがかかってしまい、ただの凡作になってしまった残念無念な作品。最後のシーンで実は赤い惑星に90年代に崩壊してしまった北の赤い共産主義国家の存在が示唆されているが、さすがに3つ目のリンゴはないだろう。