ラ・ヨローナ 泣く女
ラ・ヨローナ 泣く女(アメリカ:2019年)
監督:マイケル・チャベス
制作:ジェームス・ワン
出演:リンダ・カーデリーニ
:ローマン・クリストウ
:ジェイニー=リン・キンチェン
:パトリシア・ヴェラスケス
:レイモンド・クリス
:マリソル・ラミレス
新進気鋭のホラームービープロデューサー、ジェームス・ワンが手掛けた、中米に伝わる怨霊に呪われた母と子たちの物語。かなり考え抜かれた恐怖演出が見ものだが、お約束的に驚かそうとする作りで、しばらくホラーを観るのを控えようかなと感じてしまった。
その昔、メキシコのある場所。夫の浮気に悩まされた妻は狂って我が子たちを溺死させてしまう。舞台は変わって70年代のアメリカ、L.A。児童福祉局に勤めるシングルマザーの主人公は担当していた家庭の子ども二人が実の母に監禁されていると聞き、その家族宅を訪問。異様な雰囲気を自宅内の鍵が掛けられた部屋で二人を発見。実母は激しく抵抗するが救護施設で二人を保護する。しかしその深夜二人が川で溺死してしまう。主人公は自身の子どもを車中に残して現場に赴くが、溺死した二人の子どもの母は呪いの呪詛のような言葉を主人公に吐きつける。それと同時に残された主人公の子どもたちの身に異変が起きるようになり、一家は怨霊に襲われることとなる。
ジェームス・ワンの死霊館シリーズの連作のようだが、物語としてつながりはない様子。今勢いのあるホラーの作り手の作品なので、恐怖の見せ方に考えつくされているものを感じた。怪異の恐ろしくも悲しいキャラクター性や、夫を亡くし一人で子育てと仕事にとらわれる主人公のやるせなさ、二人の子ども失ったヒスパニック系母の怒りと哀れさなども対比されてホラーと言えども母の業や想い、守りたいという意思をひしひしと感じた。極限状態に陥った時にこそ母親の想いの深さを感じさせてくれた。
恐怖の見せ方には工夫を凝らしていると感じる。最初、怪異は鏡や水面に映る影でしか存在を見せることはなかったが、次第に手段を択ばなくなり、その恐ろしい姿を露出し始める。興味深い演出では透明ビニール傘を透して姿を見せた演出は斬新に感じた。その辺からバンバン姿を見せつけてくれるので一つの転換だったかもしれない。ただ、お約束的なジャンプスケアを多用しているのが気になり、ここでびっくりしてくださいっていう作り手の作為を感じてしまうのが興醒めする。だいたい恐怖シーンに低音のBGMが静かに流れており、あ、今から始まるんやなって分かってしまうのがいけない。
物語としてもお約束をなぞらえる。怪異の事情も説明しない最初の当事者に主人公は逆恨みされ、狙われて、救済の手段を探すうちに正規のルートではない、フリーの除霊師の助けを借りて、怪異へと立ち向かうというド定番。なので恐怖はいま一つ感じず、流れを追うことができるので展開が分かりやすい。いっつもながらだが、こういう時に教会とか権威のある組織は動こうとしない、動くまで時間がかかるとかいう設定も作品のための設定と感じてしまう。そして、怨霊になったら万能になるのはなんでや?。怖いもの好きの実存主義者気味のオレにしたら都合がよすぎる。
主人公である児童福祉局に勤めるシングルマザーについても、母の強さを感じるが、自分のエゴをごり押ししてチームワークを乱し、かといって自分の二人の子どもたちに十分に愛情を注いでいるように見えない。子育てと仕事に忙しいのは分かるが、食事はインスタント的なものやデリバリーのピザとかが目について、娘の不安に向き合っていない演出もあり、母の愛情に違和を感じてしまう。舞台は70年代の大都会L.Aでシングルマザーということなので、時代を表しているのかもしれないが、子どもたち淋しさを紛らわすようにTVをボーっと見つめているのは、愛情不足に見えて切なかった。
可もなく不可もなく、ド定番のホラーだったので物足りなさを否めない。これから死霊館シリーズを観れば、ジェームス・ワン作品の面白さが分かるのかもしれないが、なるべく続き物は見ないようにしているので、このシリーズはこれ一本で見納めする。ゾンビ系・スラッシャー系以外はたくさん見てきたつもりで、どの作品も物語の流れが一緒に感じてきているのため、しばらくホラーはお休みするのもありかなと感じさせてくれた作品だった。