バスターズ
バスターズ(2012年:イタリア・フランス)
監督:ステファノ・ソッリマ
出演:ピエルフランチェスコ・ファビーノ
:フィリッポ・ニグロ
:マルコ・ジャリーニ
:アンドレア・サルトレッティ
:ドメニコ・ディエーレ
社会情勢が不安なイタリアで、暴動鎮圧の最前線に立つ機動隊の男たちの団結とままならない人生を描いた警察ドラマ。労働者やフーリガンの暴動、移民問題とそれらを憎む排他的愛国主義者たちの台頭に、隊員それぞれが抱える背景も描かれて、一筋縄では視聴できない。
機動隊員それぞれが抱える問題が非常に重い。隊長は機動隊を愛する頼れる親分だが、反抗的な息子は先鋭的な愛国主義者の仲間入りをしている。同じ警察官の妻からは家族をないがしろにしていると非難される身分。新人の若造は母がアパートの退去勧告を受けているため、力になりたい一心で給料のいい機動隊に入隊したが、その転居先は不法移民が占拠してしまって引っ越しできずにいる。坊主頭なのに頭の血が沸きやすい隊員は離婚問題で散々な目に遭っており、同僚のリーダー格の隊員宅に厄介になる。イタリアが、ヨーロッパが、いや全世界が抱えている社会問題を作中に詰め込んでいる。
リーダー格の隊員は暴動鎮圧の際、行き過ぎた暴力行為があったとされ裁判中。しかも過去に何件も起こしているという札付き。荒くれの輩かと思えば機動隊基地に見事な壁画を描くような芸術肌も持ち合わせている。新人の若造に機動隊員の心得を説き、仲間の大事さを訴える。隊長がフーリガンに刺された際には、犯人を追うため情報をかき集めたりと、激戦を共にした仲間を大事にする人情もある。身だしなみにも細かく、だらしなく警備に当たる同僚に「制服の意味を考えろ」と整えさせるところが流石イタリアの男と感じた。
そんな彼らが一触即発の現場へ駆り出される。労働者がデモを行う港湾、フーリガンどもが物を投げつけ合うスタジアムなど。特にフーリガンどもの迫力は凄まじく、数を頼りに機動隊員たちに襲いかかり、殴る蹴るの暴力に投石、中には爆発物さえも用意して暴虐の限りを尽くす。機動隊員がポリカーボネイトの盾を密集陣形で構えて進んでいく姿に耐えることしかできない辛さを感じる。が、ひとたび号令が下ると突入し、暴漢たちを検挙していく。その昔日本も同じような情景があったらしいが、今はごく一部なので、現在の平和をありがたく感じる。
だが、チームのメンバーも清く正しいヒーローではなく、不当な暴力を振るっている。それを仲間内で口裏を合わせて事実を捻じ曲げる。黒人の親子がならず者たちに恐喝された復讐に、警察権力をちらつかせてならず者たちを公園から締め出すシーンは見苦しい。彼らが私怨に駆られて行動を起こした時、最悪の形で破滅が訪れ、その末路には自業自得さを感じさせる。結局彼らチームを結ぶものは暴力に対した暴力の連帯なので共感できない。そして新人が選んだ行動は仲間たちから軽蔑されるだろうが、暴力の癒着を断ち切るので自分は支持する。
フーリガンの問題も深刻だが、それ以上に深刻なのが移民問題。特にイタリアはアフリカから近いのでかなりクローズアップされる。移民キャンプからの滞在者の連行や、空き地に不法占拠している移民問題。排他的愛国主義者たちが彼らを迫害し、機動隊はその間に立って彼らを守る。なので愛国主義者たちからは罵倒され忌み嫌われる。隊長の息子に至っては自分の父を人殺し呼ばわりする。隊長にも否はあるのが、自分を育ててくれた親をそこまで罵倒するのは腹が立った。
何か明確な敵がいる訳でもなく、機動隊員たちの人間模様を中心に描かれるため話の盛り上がりもなく、展開の変調もない。破滅が現実になるだけで話が膨らまず、観ていて飽きてしまったのが本音。
伊達男の国イタリアらしく警察官の服がカッコいいのが印象的。出動服のヘルメットの色がライトブルーなのとベルトが白なのは違和感あるが、通常の制服はベレー帽に濃紺の上着に首元は紅いハイネック(スカーフかも)。グレーがかかったズボンを履いて、編み上げのハーフブーツとかなりイカした装い。これだからイタリア人の衣装を見るときは気が抜けない。