ビトレイヤー

ビトレイヤー(2013年:イギリス)
監督:エラン・クリーヴィー
製作総指揮:リドリー・スコット
配給:モーメンタム・ピクチャーズ
出演:ジェームズ・マカヴォイ
  :マーク・ストロング
  :アンドレア・ライズブロー
  :ピーター・マラン

原題は「Welcome To The Punch」。因縁のある刑事と犯罪者が紆余曲折を経て巨大な陰謀に挑むクライムアクション。邦題の「ビトレイヤー」は裏切り者の意味。
監督の経歴を探してもヒットしないのでよく分からないが、今作は2作目の映画。製作総指揮がリドリー・スコットなので、演出や効果が引っ張られている感がある。床を漂うスモークの使い方、暗青の色調を基とした映像、闇から光への転調等々、この監督さん、リドリー・スコットの弟子かなと思われされる。BGMも何となくリドリー・スコットが好みそうなゆっくりとした重みのあるものが多い。
舞台はロンドン。英国の警察官は銃を所持しないと聞いていたが、その通り主人公の優秀な刑事は丸腰で大物犯罪者を追う。あと一歩のところで捕まえられるところだったが、逃してしまい、去り際に右足を撃たれる。そして3年後、ある事件を巡って復職した刑事と因縁の大物犯罪者が共闘する。
主役のジェームズ・マカヴォイは近年活躍が目覚ましい俳優。なるほど演技力が素晴らしい。走る、追うといった刑事らしいアクションが様になる。銃撃戦があった現場を捜査し、銃撃の状況をイメージする姿が優秀な刑事らしい。撃たれた右膝をかばう表情は本当に痛そう。泣き顔や脅しをかける表情は非常に豊かで、青い瞳に吸い込まれる印象がある。しかし体格が華奢なのが残念。身体の大きいキャストが多いので、今一つ迫力負けしてしまっている。
共闘する大物犯罪者がマーク・ストロング。3年前の事件で刑事の右足を撃った男。スキンヘッドに堂々とした体躯。深く見つめるような眼は冷静かつ情熱的で、ライオンのような猛獣を連想させる。迫りくる敵たちに対し、即興でガスや消火器を爆発させるなど行動が極めて理知的。アクションシーンはその立派な身体が力強く躍動する。寡黙で表情をあらわにしないのだが、彼の泣くシーンでも悲痛な思いを共感できるほどだった。
他のキャスティングも魅力的な俳優が揃っており、刑事には相棒の女性刑事が、大物犯罪者には中古車ディーラーの初老の男性が、それぞれコンビを組んで動く。この二人の個性が面白く、女性刑事は刑事の友達以上恋人未満、二人でいるがキスにはまだ抵抗がある。手にメモを書くクセをたしなめられるが、それがストーリーの鍵となる。中古車ディーラーは大物犯罪者に協力的。取引現場へ前乗りしてサブマシンガンを仕掛けたり、人質の陰で拳銃を構えたりと行動にそつがない。でも奥さんは大物犯罪者を嫌っている。そりゃそうだ。
いちいちくどい説明が少なく、理解しやすい映像で事件の鍵と展開を説明してくれているのが好感を持てる。ただ何度かややこしい説明があったので引き返して見直すこともあり、映像を見ているだけでは理解が追い付かない点はある。伏線もしっかりあるが、ありすぎるのが残念な部分。それを言えばタイトルからしてネタバレなので、観ながら「どうせお前も裏切り者だろう」とツッコんだ。その通りになったけど。
最初はただの銃の殺人だったが調査していくうちに黒幕の巨悪に突き当たるというありがちな展開。その黒幕は背後にいるのだが、銃撃戦があって直接の悪との対決はあるのに、巨悪の存在感がないのは残念だ。ラストシーンはスマートではあるが、カタルシスは少ない。
気が付くとジェームズ・マカヴォイとマーク・ストロングの演技と存在感に注意がいってしまい、ストーリーに注力できなくなってしまっている。二人の関係性がハラハラさせられたので、もっと早い段階で交われば、さらにスリリングな展開を観られたのではないかと思う。そこら辺も残念に感じたところであった。

いいなと思ったら応援しよう!