ブラッド・ブラザーズ ー天堂口ー

ブラッド・ブラザーズ ー天堂口ー(台湾・香港:2020年)
制作総指揮:ジョン・ウー
監督:アレクシ・タン
出演:ダニエル・ウー
  :リウ・イエ
  :スン・ホンレイ
  :スー・チー
  :チャン・チェン
 
成り上がりを夢見た三人の若者たちが、それぞれの岐路に立った時、絆が崩れ去りお互いを殺し合う、哀しい生き様を描いた、いかにも中華ノワール作品。ハリウッドでは今一つだったジョン・ウーがホームグランドで原点に帰って、過去の映画をリメイクした作品。ジョン・ウー節が随所に見られるが、物語のボリューム多すぎて、もっとシンプルにならんかと思った。
1930年代中華大陸は水郷のひなびた田舎町。病気の母を抱えつつ親孝行な主人公は、強い絆で結ばれた幼なじみの兄弟二人と一獲千金を夢見て、三人そろって上海へと出稼ぎに出る。上海では人力車夫として日銭を稼ぐが一向に金は溜まらない。上海でも頂点のキャバレーのウェイターとなった兄弟の兄は主人公と自身の弟をキャバレーに招くが、そこは上海では実力者が経営する店。無論きれいごとでのし上がった人物ではなく、三人は汚れ仕事を任せられる。主人公は嫌がり抜け出すが兄弟が敵対組織に捕らわれ危機に陥ったため、引き返して敵を射殺。彼も抜け出せなくなってしまう。キャバレーの実力者も愛人関係から、実弟からも憎まれており、暗殺されそうにもなっている。その愛人も主人公と仲良くなりつつあり、人間関係はより複雑になっていく。母の治療のため金が必要な主人公、野心のため上海でのし上がりたい兄、汚れ仕事に苛まれてアルコールに溺れていく弟。それぞれの生きざまが別れて、再び交わるとき悲劇となる。
物語が人間関係を中心に描かれ、かつてのノワールものみたいに序盤からの銃撃戦、アクションは少ない。しかし主人、兄弟のそれぞれの性格を際立たせて、欲望の街、上海で翻弄される姿が三者三様に描かれて、悲しさを感じ取れる。主人公は優しく何でもできるタイプなので、悪の道でもそれなりに立ち回れて、幼なじみの兄弟を守るためと言っても鮮やかに敵を射殺するなかなかの腕利き。誠実な人柄なのでキャバレー経営者の愛人である歌姫とも仲が近づいていく。いや、アンタ地元に相思相愛の彼女おったんやないんかとツッコむが、これ自体はちょっとしたストーリーライン。彼自身は義理堅く、望んでなくても腕が立つということで。
その主人公を上海に連れてきたのが。幼なじみの兄弟の兄。抜け目はないが、自身の欲望のため善悪のモラルがやや乏しく、成り上がるために汚い仕事も請け負う手段を選ばないタイプ。なので率先して悪事に手を染めて、手下を使えるほどの立場になるが、主人公と弟とは強い絆で結ばれているので、二人を繋ぎとめようとする。実力者からの汚れ仕事を執行しようとしたとき、その絆に亀裂が入ってしまい、彼らの間は大きく変化する。成り上がろうとして、大切な絆を失っていく悲しさを感じた。その弟は悪事に馴染めず、酒に溺れつつも兄の元を離れられず、さりとて主人公のことも諦めきれず、フラフラとしてしまうが、悲しい末路を辿ってしまう。
三者三様の生きざまが別れ離れていくが、ここでキャバレー経営者とその弟の関係も絡んできて、話が分かりにくくなっていく。しかも理由が歌姫の愛人を巡ってであり、この展開は必要に思えない。しかも二人ともいいキャラクターだけにもったいない。ヤリ手でのし上がり、時には自ら手を汚すことも厭わないキャバレー経営者の憎たらしさは盛り上がるし、汚れ仕事を請け負っていた弟は危険な雰囲気を出しつつも純愛を貫こうとするだけに悲しさが漂う。だが余分。歌姫も含めて注目される人物が多すぎて時間内に収めるのに無理がある。ここいらに登場人物の詰め込み過ぎで、ストーリーが頭に入ってこないジョン・ウーらしい演出を感じた。
ラストの銃撃戦ではジョン・ウーのいいところが出ていたと思う。ハリウッドに渡ったときのような無駄な長回し、スローモーの応酬は控えめ。派手に銃をぶっ放してバッタバッタと敵をなぎ倒すが、棒立ちの主人公にはなぜか弾丸は当たらないというご都合もジョン・ウーらしい。
リメイク作らしいので元があるのだろうが、登場人物を絞って、ありきたりだが主人公中心に幼馴染の兄弟とキャバレーの経営者とその愛人との物語にすればすっきり100分程度に収まっただろうと思う。ラストシーンもジョン・ウーっぽくてなーんとなく演出が鼻についた。いつも無理にスマートに収めようとしている気がする。

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