フロッグ
フロッグ(アメリカ:2019年)
監督:アダム・ランドール
脚本:デヴォン・グレイ
出演:ヘレン・ハント
:ジョン・テニー
:ジュダ・ルイス
:オーウェン・ティーグ
:リーベ・ハラール
よく練られたアイデアに、考えつくされたプロット。いくつもの伏線を回収する小気味良さはかなりの面白さを感じたが、中盤からラストにかけての急展開は後出しじゃんけんのような卑怯さを感じる。物語が変調するから自分好みではなかっただけだが。
ある街で少年が連続して誘拐される事件が発生。その事件を捜査する刑事は家庭の不和に悩まされていた。医師の妻が不倫をしていたようで、一人息子はそのことに怒り、母に反抗的。刑事自身も怒りを抱えつつも平穏にやり過ごそうとしていたが、弁解したそうな妻からの電話に腹を立て窓に向かってスマホを投げつける。その後に帰宅した妻はキッチンの銀食器が無くなっているのを発見。訝しげるがそこには夫が窓の修理に来ていた業者がいた。業者は「礼儀正しい娘さんが案内してくれた」と説明するが子どもは一人息子だけのはず。その日から家族三人自宅内で何者かの気配を感じるようになる。ある朝妻は不倫相手が忍んで来て復縁を迫られる。その直後不倫相手にマグカップが投げつけられて後頭部を直撃。妻は彼を治療のため地下室へ匿うが、息子の送迎から帰宅すると不倫相手は頭をカチ割られて殺害されていた。殺した犯人は、この家で感じる何者かの気配は、そして連続誘拐事件との関係は。
以前もヘレン・ハントがお母さん役を演じる作品を観たが、やはり名女優、演技が自然。今作は不倫をしてしまった妻の役どころだが、少しの生活の物足りなさからまちがいを犯し、それを後悔している辛さを表情から感じさせてくれる。裕福な家庭で育ったためか、刑事の夫とは格差があり、夫もそのコンプレックスに付きまとわれているよう。なんでバレたかは分からないが、一人息子も過敏な年ごろなので憎まれても仕方ないという身の上を表現している。言い寄ってきた不倫相手はハイスクール時代の彼氏だったようで、あんまりいい身分でもなさそう。多分ブルーカラーの男性が好みなんだろうけど、ここに彼女の悲しい性分を感じた。
序盤から家庭の不穏な空気と、何者かの気配が漂い、不気味さの経糸と緊張の緯糸が次々と張られていく。消えた食器類や勝手に点くTV、レコードオーディオ等々、ホラー要素を感じさせてゾクゾクするが、中盤以降に原因が観ている方にだけ解明される。それと同時にこの家庭が抱える闇と、とてつもない恐怖が明らかになるが、その過程が長い。確かに分かる行程は面白かったが、後出しじゃんけんのようなズルさを感じてしまい、そりゃそうだけどもと納得できなかった。
その中盤から異変の種明かしをある人物たちが見せてくれるのだが、ここにタイトルの「フロッグ」がかかる。両生類のカエルの意味での「Frog」かと思っていたら、新造語の「Phrog」らしい。意味は同じカエルでも、こっそり他人の家に侵入してピョンピョンと跳ねるように移り住んでいく犯罪行為らしい。この犯罪こそがこの作品のキモで、その犯罪が起点となり街を騒がす誘拐事件の真相へと切り込んでいく。
しかし謎を解明した後の展開は説明不足に感じた。刑事の夫とある人物の関係を映像で示唆するが、今この二人が邂逅したのは偶然なのか、意図的なのか。刑事の夫に対してその人物の行動が次第に大担になっていくのに、あらかじめ考えられていた作為を感じたが、偶然にも見えてよく分からない。更には連続誘拐犯も解明されてしまうが、その犯人が過去を「あの時は仕方なかった…」と弁解したのも気になる。今回の事件も偶然なのか、予定されていたのか、スッキリしなかった。
ゆっくりと対象をありありと映し出すカメラワークに謎が忍び寄る不気味さの演出、それに伴う伏線の散りばめに呆気なく自然に明かされる回収の仕方。なかなかのサスペンス劇を観たが、ラストに騙されたーっていう爽快感が感じられなかったのが残念。一度観て、二回目に観ると視点が変わって斬新さを感じる作品なんだろう。ただ、結婚と子育て、そして不倫は人の業だなぁとつくづく感じた。不倫はしたらアカンけど。