特攻サンダーボルト作戦

特攻サンダーボルト作戦(1977:アメリカ)
監督:アーヴィン・カーシュナー
出演:ピーター・フィンチ
  :マーティン・バルサム
  :ホルスト・ブッフホルツ
  :ヤフェット・コットー
  :チャールズ・ブロンソン

初めて一人暮らしをしたときにTVの深夜映画劇場で観た。眠い眼をこすりながら、一人で暮らす高揚感の中見た記憶がある。ウソのような本当の話。
タイトルとチャールズ・ブロンソンが出ていることで悪党をバッタバッタとなぎ倒す痛快アクション映画かと思われそうだが、1976年のエンテベ空港急襲事件が舞台。パレスチナ解放機構のテロリストがエールフランス機をハイジャック。イスラエル・ユダヤ人の人質をとってウガンダのエンテベ空港に立て籠った事件を描く。
やはり時代のため映像は古い。しかもTV映画のため、唐突に不自然にCMカットが入るのでテンポが今一つ悪い。緊張感が続かない。また自分の無知のため、知ってる俳優はピーター・フィンチとチャールズ・ブロンソンだけ。ピーター・フィンチは出演作を観たことがないのに、何で知っているのか分からない。
そもそもこの作品、事件の翌年に公開されており、細かい部分に荒さが目立つ。ハイジャックされてすし詰め状態の機内はもっと悲惨な状況だろうし、空港の建物はプレハブ感が目立つ。一国の首相のオフィスにしてはえらくこざっぱりしている気もする。事件直後では公表されていない事実はたくさんあり、ストーリーと現実の乖離はある。
それでも同胞を人質にとられたイスラエルがその死命をかけて襲撃奪還しようとしたのは事実で、そこまでに至る政府の奮闘、現場作戦部隊の念密な訓練・行動、テロリストと人質らの駆け引きや葛藤等、観て唸る点は非常に多い。
テロリストのリーダーは人質をとったものの人道的な扱いに苦悩する。人質は互いを励まし合い、経験とスキルを活かして生存しようとする。人質の男たちが集まって「強制収容所ではそうしてきた」と語り合うシーンは地獄を生き延びてきたユダヤ人たちの生き延びる信念を感じた。彼らと対照的に有名な独裁者、イディ・アミン大統領の稚拙で独善的な自己顕示欲が愚かしく見える。
この映画は珍しく、チャールズ・ブロンソンが自ら敵を倒さない作品でもあり、准将という現場指揮官という配役だった。これがまた適役で寡黙ながら部下を信頼してまとめ上げ、作戦を遂行していく。自ら戦わないものの、深く刻まれた顔の彫り、風に揺れる銀髪、イスラエル国軍の戦闘服がとても似合っており、やはりチャールズ・ブロンソンは戦う男なんだなと実感させられる。
イスラエル首相のイツハク・ラビン首相役のピーター・フィンチもカッコいい。国難にあって、意見を求め、行動を考え、適切な判断を時には力強く決める姿にこの作戦の重要さを感じた。自分も腕時計を左から右腕に替えようかと真剣に考えてしまった。
アメリカは自分が正義の映画を作ると非常に偏るが、この作品のような第三国同士が争う作品を作ると非常にいい形に昇華してくれる。テロリストにも正義はあるが、それを実行することは正義ではまったくなく、独裁者が自分の顕示欲のために人質を利用しようとするが、そこが交渉引き延ばしの策でもあったりと功罪が混ざり合っている。
作戦を遂行する特殊部隊隊員も人間であり、その背景には家族もいるし、彼ら自身も一人の気のいい青年達でもある。移動中バックギャモンをしながら口ずさんだHine Ma Tov(ヒネ・マ・トヴ:なんと素晴らしいことか、兄弟に囲まれ 人々が調和の中で暮らせたら)が次第に大きくなり、最後には危険な作戦に挑む自分たちの恐怖を払うような大合唱になったシーンは、彼らもやはり一人の人間なんだなと強く感じた。
この救出作戦は通称が「サンダーボルト作戦」であるが、別の名前を「ヨニの作戦」ともいう。立案・実行したヨナタン・ヨニ・ネタニヤフ中佐が由来であるが、その彼の実弟が前イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ。実話の話なので現代史の重要人物がたくさん出てくる。フランス大統領、ヴァレリー・ジスカール・デスタンの側近が「シラク君(後のフランス大統領のジャック・シラク)」と呼ばれたときは思わず笑ってしまった。
自分たち日本人は強く国家の正当性を主張しない国民だが、中東におけるイスラエル、パレスチナの国家の正当性主張は世界規模で根深い。この事件はその後の世界的通念を変化させ、国外での自国民が犯罪に巻き込まれたとき、それに対して国家は救出・障害排除に動くという慣例を作ってしまったという。
残念だが、中東以外にも民族間紛争は現在も頻発しており、民族虐殺の話題も聞くようになってしまった。願わくば「人々が調和の中で暮らせたら」という理想が現実のものになってほしい。

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