アンホーリー 忌まわしき聖地

アンホーリー 忌まわしき聖地(2021年:アメリカ)
監督:エヴァン・スピリオトポウロス
制作:サム・ライミ、エヴァン・スピリオトポウロス
出演:ジェフリー・ディーン・モーガン
  :クリケット・ブラウン
  :ウィリアム・サドラー
  :ナタリー・ゲイツ
  :デイオゴ・モルガド
 
しがないオカルト系フリージャーナリストが遭遇した「奇跡」の背後に潜む怪異への追究を描いたサイコホラー。製作にはカルトムービー(最近はメジャーになっちゃったけど)の旗手、サム・ライミが関わったということで、怪しげな匂いがしたのだが、怪異の恐ろしさが今一つ伝わってこなかったが残念。それよりいつ有刺鉄線バットが出てくるんだろうと思って観ていた。
捏造で悪評立つオカルト系フリージャーナリストが取材で訪れたのはアメリカの田舎町。取材のネタは空振りだったが、古びた一本の立樹の洞からこれまた古びた人形を発見する。魔除けの人形と聞いた彼はネタを盛り上げるために、その人形を踏み壊してしまう。その夜帰宅しようとした彼の前に少女がその古びた立樹の前で立ち尽くしていたのを発見。彼女を保護して教会に運び込むが、彼女は耳が聴こえず話せないことが判明。しかし彼女ははっきりと言葉をしゃべった。その理由を彼女は信仰の力、マリア様を信じる心がなした奇跡と説明する。その後彼女が車いすの少年を歩くことができるように癒したことで奇跡が顕現。カトリック教会にも伝えられ、例の立樹は聖地として認定される。最初は彼女の軌跡を広めて、自分も名を上げようとしたジャーナリストだったが、その軌跡の背後に隠れている怪異に気づく。そして怪異は何かを成そうと次第に正体を現していく。
アメリカ片田舎の怪しさが雰囲気を盛り上げる。素朴な住民とその心の支えであるカトリック教会がいかにも素朴な田舎であるが、その下に潜む悪意に満ちた怪異が暗躍できる土壌であるのが恐ろしい。草っ原にポツンと立つ立樹には怪しさはないが、そこに閉じ込められていた怪異が暗躍し始めると、聖地として祀り崇められて人々の信仰によって飾り立てられていく。人間の浅ましさを見たような気がしてこれにも戦慄した。
主役のジャーナリストはやさぐれた雰囲気のいかにも胡散臭いブン屋。はじめは奇跡の報道を独占しようとカトリック教会と契約して自分の功名を狙う。大手報道には自分の価値を吊り上げるような交渉をするなどやることはゲスい。かつてはピューリッツァー賞を狙おうと意気込んだこともあるらしく、今の自分の境遇を悲観することもあるようなちょっと欲の張った一般人。耳が聞こえるようになった少女のためにいろんなジャンルの音楽を用意するなど、これも一般人的な優しさも持ち合わせている。ジェフリー・ディーン・モーガンの小じゃれたちょいワル親父の風貌が結構カッコいい。こんな爽やかなオッサンになりたいなと思いつつ怪異と対峙した時、いつ「ルシール」を取り出すのかな?と思ってしまった。ドラマのキャラクターに引っ張られ過ぎる所がこの人の減点箇所かもしれない。
その渦中にいる奇跡の少女の存在が弱いのが残念。彼女の耳が聴こえるようになり、声を出すことができるようになった時から物語が動いていく。落ち着いて奇跡を受け入れている姿勢はいかにも宗教人と思えるが、音楽を楽しむことができるようになった彼女の喜びがあまり伝わってこない。その喜びが大きいほど、怪異の存在への絶望が盛り上がるのだが、奇跡を盲目的に信じる心が大きくて、ストーリーを盛り上げるほどの存在感はない。彼女を慕う民衆は盛り上がりを見せるが、彼女自身は奇跡を信じることを説くのみ。もっと内面、動向などをクローズアップして欲しかった。
ここで彼女の存在を認めるカトリック教会のやり口がさらにゲスいと感じる。彼女を操ろうとしている怪異の存在を認めながら、それすら利用して信仰につなげようとするやり方はひどすぎる。心ある神父たちは怪異に抹殺されていくが、殺され方も今一つ。もっと怪異を発揮した殺害方法や、バンバン殺害して恐怖たらしめてほしかった。自分は因習めいたホラーが好きなのだが、その因習も弱く、恐怖も弱く、ドラマも弱いという消化不良の作品だった。どうしたサム・ライミ。オレたちのやり方を忘れてしまったのか。

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