グッバイ・クルエル・ワールド

グッバイ・クルエル・ワールド(日本:2022年)
監督:大森立
脚本:高田亮
出演:西島秀俊
  :斎藤工
  :玉城ティナ
  :大森南朋
  :三浦友和
 
豪華なキャストが揃ったクライムムービーのつもりで観たが、物語と登場人物の情報の渋滞で、最後までとっ散らかった構成が目に余った作品。好みの差もあるだろうけど、邦画でクライム群像劇を撮ると人物の収拾がつかなくなってしまうので飽きてしまうのも早い。
一夜限りで集まった五人の男女がアメ車である場所に向かっていた。目的は暴力団の資金洗浄で出た足のつかない金を奪うため。全身タトゥーの粗暴な男、これから始める凶行におびえる風俗嬢に運転する彼女の恋人の男、飄々と全員の間を取り持つ高齢の男、そして助手席にはヒリつきながらも落ち着いている中年の男。五人はまんまと金を強奪し、後腐れないように別れる。それぞれ生活に戻るが、それでも金がまだ必要な面々は次の手を考え、巡り合い始める。そこに強奪された暴力団に、悪徳刑事、出所してきた元舎弟に政治家が絡み合い、非情な奪い合い、殺し合いに発展する。
出だしのソウルフルな曲ととともに走るアメ車のカッコよさに惹かれたが、金の強奪が成功してからそれぞれの生活に戻っていった辺りからどんどんダレてくる。出てくるキャラクターが多いので、一人ずつその背景を見せると自然と尺が長くなり、特に主役の男の生活がありがちな物悲しさを引きずるので何とも言いようがなかった。かつて暴力団にいたが、今はマジメに義父の旅館の経営を立て直ししようと奔走している。それでも経営の難しや資金繰りの不調など、苦しい状況には変わりはなく、妻には見放されている姿が悲しい。西島秀俊のスマートな佇まないと寡黙で憂いのある表情が活かされているが、観ていて苦しいだけでしんどい。また雰囲気がカッコよすぎるので元極らしさがまったくなく、後半凶行を見せるが、ここにも元極らしい狂気を感じなかった。悲しみをたたえた枯れた演技はいいんだがなぁ。
個人的におもしろかったのが斎藤工の全身タトゥー男。裏稼業で殺しも厭わない、女でも手をかけるドクズだが、こういう業だらけのキャラクターの方が映画で観ていて面白い。以前観た作品でもバクチ打ちの作家の役で埒の外の人間を演じていたり、ネットCMでとぼけたキャラを演じていたりと、なかなかマルチに演じてくれそう。映画作りに情熱があるようなので今後精力的な活動を期待している人でもある。この人、こないだ光の巨人ヒーロー演じてたし、西島秀俊は異形の変身ヒーロー演じてたので、自分の中では特撮モノができる人は演技が上手いと感じている。
ただここで残念なのが、悪徳刑事役の大森南朋や、飄々とした高齢の男を演じた三浦友和など、確かな演技ができる俳優がいるのに、活かしきれない構成。それぞれ重い過去と考えがあるのに、キャラクターが多すぎるせいで、今一つストーリー内で重きを感じられない。二人ともラストに必要な役どころではあるのに…。大森南朋の上目遣いはゾッとする不気味さがあり、飄々と笑う三浦友和は何かを隠している信用のなさを感じてストーリーを盛り上げてくれるたんだが。
がんばったのが玉城ティナ。借金で苦しむ風俗嬢で、最初宮川大輔演じる恋人と組んで怯えつつも強奪に参加し、全身タトゥー男に半殺しにされるが、今度は宮沢氷魚の半グレとつるんで復讐する。かわいらしい顔が粉々のガラス片に押し付けられて血まみれになるのは悲痛だったが、散弾銃引っ提げて喫茶店へ襲撃かけるシーンはスカッとした。ただ復讐が行き着く先は破滅でしかないのが悲しい。宮川大輔は必要だったかな、これ。
人が多すぎ、ドラマが多すぎ、設定が多すぎでまとまりがない。二つ、いや三つくらいに分けて作品を撮れば、元極の世の中での生きづらさを描く社会劇、反社同士の金を巡るピカレスクムービー、風俗嬢と半グレの純愛復讐ストーリーと三部作に繋げられたんではないだろうか。それぞれ個性も魅力も、演技力もある俳優が出ているので、制作には設定を削ぎ落しつつも作品として昇華させて欲しいと思わされた。でもクールなアメ車とノリのいいソウルの組み合わせは必須。

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