アイアン・スカイ

アイアン・スカイ(2012年:フィンランド・ドイツ・オーストラリア)
監督:ティモ・ヴオレンソラ
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
出演:ユリア・ディーツェ
  :ゲッツ・オットー
  :クリストファー・カービイ
  :ペータ・サージェント
  :ステファニー・ポール
  :ウド・ギア

制作のためにクラウドファンディングで映画フリークスから約100万ユーロ(約1億円)を集めて制作された、フリークスによる、フリークスのための、フリークスの映画のはずだった映画。アメリカ大統領選のキャンペーンのため黒人宇宙飛行士が月の裏側で見たものは、第二次世界大戦後月へ脱出したナチスの基地だった。ナチスは地球に侵攻しようとたくらんで、ある機械の入手のため地球に潜入するが…。
日本ではB級映画と言われるエクスプロイテーション映画。その中でもナチスが登場するものはナチプロイテーションと呼ばれるらしい。作中激しい暴力や露骨すぎる性描写は少ないがご都合主義的な展開でゴリ押しして、何がヤマなのか、何が見せ場なのかが分からない。登場人物は少ないのでストーリーは理解しやすいが、ごちゃごちゃしたシーンやカット割りで観ていてダレる。
その中でもヒロインのナチス女性学者役のユリア・ディーツェがキレイで、軍服がとても似合っていた。あまりセクシャルな衣装を褒めたくはないのだが、大統領の前に登場した際の衣装は群を抜いてセクシーで、赤い口紅と流れる金髪、白い肌に黒のナチス親衛隊制服と退廃的な美を魅せつけていた。表情や演技も申し分なく、これからどんどん出てきてほしい女優である。
悪役のゲッツ・オットーもなかなか演技が素晴らしく、野心に満ちたナチス幹部を熱演。長身でビシッと背筋が伸び、いかにもドイツの軍人といった風格を漂わせている。キスで口元を赤く汚された顔で総統閣下から尋問を受けているときの表情は、間抜けだが、これから何かしでかしてくれそうな危険な顔だった。フィルモグラフィを確認すると、ドイツ国内外の映画やTVでかなり活躍している俳優で、自分の記憶と照らし合わすと、007シリーズでの悪役の人だと感動してしまった。
B級と高を括って観ていたが、意外とキャストは演技力が高いので、映画編集の力は大事だなと思わされる。もう少しシーンのつなぎを脈絡あるものしてくれればすんなり視聴できたかも。そりゃあCG使えば巨大な宇宙戦艦はできるだろうし、壮大な宇宙空間も作ることができるが、キャストとセット・小道具衣装がよくても、編集と構成が今一つになればバランスが悪い。
物語の後半には世界各国が秘密に建造した宇宙戦艦と月のナチスの超巨大宇宙戦艦と戦闘シーンがあるが、迫力に欠けた。派手な戦闘はなく、散漫にミサイルと砲を打ち合うだけ。しかも国歌が流れたから一時停止って…。日本も宇宙戦艦を作っている設定のようだが、監督はフィンランド人なのでそこまでは分からんのは仕方ないが、日本が宇宙戦艦を作るとなれば艦首波動砲は絶対必須。
B級のコンテンツでは、ナチスは中濃ソースのように使い勝手がいい設定で、美女というカツにたっぷりかけて、SFというカレーライスにのっければ誰でも楽しめるカツカレーになる。そんな風なこの作品はフリークスたちの夢でできているが、SFなのかコメディなのか、それともその両方なのか、作品全体がぼやけてしまっている。カルト的な人気はあるようだが、それほどカルト感も強くなく、中盤の熱いキスシーン以外は家族との鑑賞に堪えられる内容でもある。中途半端に娯楽作となってしまった。もうちょっとバカ映画になってくれたらよかったのに…と感じながらも、こういう設定とこういう美女とこういう悪役は、自分大好きなんだよなぁ…。

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