決戦は日曜日

決戦は日曜日(邦画:2022年)
監督:坂下雄一郎
出演:窪田正孝
  :宮沢りえ
  :小市慢太郎
  :赤楚衛二
  :内田慈
  :音尾琢真
 
政治界隈が騒がしい。支持率が今一つの内閣と分裂する与党に、凋落一方の第一野党。勢いのある保守新勢力に、民主主義を謳いながら独裁的になる革新勢力。久しぶりに騒々しくなってきたので薄口政治ウォッチャーとしては様々なメディアに注視しているところ。そんな中で見つけたこの作品。国政選挙を目前に、父の代理で出馬したトンデモ娘に振り廻される中堅秘書の騒動を描いた選挙コメディ。
元閣僚経験議員の中堅秘書の主人公は事なかれ主義で、我が子を私立小学校に入れるべく、平平凡凡と職務に精を出していた。その矢先議員が倒れてしまい、同じタイミングで衆議院が解散。選挙に出られなくなった議員の代理に、与党地元県連は議員の娘を担ぎ出す。が、この娘は政治のド素人で政策やビジョンはまったくなし。おまけに傲慢、高飛車。選挙の基本も知らず暴走しまくって、支援者や県連議員たち、そして有権者に反感を買いまくってしまう。ヒステリー気味に狂言自殺も起こそうとするが、秘書たちスタッフには冷ややかに対応され、雲行きはどんどん怪しくなる。それと同時に議員の父にかつての汚職疑惑が持ち上がり、更に劣勢になってしまう。選挙の行く末はどうなるのか。
重鎮である議員の父が倒れたので、代理で政治の素人の子供が担ぎ出されるという構図はよく取り上げられる。今作も同じなので新鮮味は感じられない。注目は出馬した娘でなく、それに振り回される私設秘書という構図だが、キャラクターが曖昧に感じて関心を引かなかった。中堅秘書役の窪田正孝には情熱を失った虚無感を感じるが、出馬した娘に振り回されて苦労しているという印象を受けず、中途半端に感じる。我が子を金のかかる私立の小学校に入れたいという思いがあるなら、歯を食いしばって娘の高飛車に耐え、地元県連の議員たちの怒りをなだめつつ、有権者の不満に言い訳を弄するような苦労をもっとクローズアップしても良かったのではと思う。演技と佇まいがいいだけにもったいない。
やはり宮沢りえの存在が大きい。画面に映るだけで存在をありありと印象付けられる上に、赤い衣装を見事に着こなし、秘書たちスタッフには高飛車で応対し、破天荒に行動しては悪目立ちを見事に演じている。「各々」を「かくかく」と何度も連呼してたのには笑いを禁じえない。県連議員たちに持ち上げられていい気になり、キャンキャン声を張り上げてヒステリー気味に秘書たちスタッフに噛みついて、
迷惑かけた支援者にバツが悪そうに謝罪するなど確たる演技力にスゲェと再確認させられた。あぁ、あの時の白鳥麗子はこんな大女優になったんだなぁと遠い眼で見つめてしまう。今もキレイだが昔はメチャクチャ可愛かった。
キャストはそれぞれ演技力のしっかりした俳優が出演しているので、特に秘書たちスタッフの関係・雰囲気は非常によかった。一番年配で公設秘書役の小市慢太郎が、地元県連や支援者との様々な折衝や根回しを担当していたが、長年の経験を培って立ち回っている。本当はこういう政治の酸いも甘いも知った人が代理で立てられることが多いんだが。私設秘書の一人、音尾琢真は個人的には注目している俳優の一人。例の水曜で有名な超人気俳優の盟友で、彼の陰に隠れがちだが、時代劇から現代劇、おちゃらけた役からシリアスな役まで何でもこなすことができる俳優。注目されなくてもいいから、もっと様々な作品に出演してほしい。その他若手私設秘書の赤楚衛二のフレッシュ感や内田慈のベテラン女性スタッフも、選挙事務所行くとこういう人たちいるなとクスっと笑えてしまう。
しかし納得いかないのが、支援者はいかにも老害的に描かれるし、地元県連は自己の利益を優先しているように演出される。その中でも有権者の存在は薄く、あんだけ娘と父親がスキャンダル起こして一票を投じようと思う有権者は少ないぞと腹立たしくなる。
その昔、某大物政治家の側近だった方に話を聴いたことがあるが、選挙中は出馬者本人から末端のポスター張りまで一挙手一投足、それはそれはみんな細心の注意を払って動いているという。それこそ人の影まで踏まないレベル。作品はドラマチックに演出するが、実際はかなりドライ。それこそオレたちがこうであってほしいという願望なんだろうな。

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