ノクターナル・アニマルズ/夜の獣たち

ノクターナル・アニマルズ/夜の獣たち(アメリカ:2016年)
監督:トム・フォード
原作:オースティン・ライト「ミステリ原稿」
出演:エイミー・アダムス
  :ジェイク・ジレンホール
  :アーロン・テイラー=ジョンソン
  :マイケル・シャノン
  :アーミー・ハマー
 
裕福な暮らしを送りつつも鬱屈した日常を過ごす女性アートディレクターと、作家の夢を追いつづけて数年越しで小説を上梓した彼女の元夫。元夫の小説を追想しつつ彼女たちの過去の出会いと別れ、そして現在の立ち位置を残酷なまでのリアルな視点で描いた人間ドラマ。残念ながらオレの弱い解釈力では作品が意味する深遠まで届かなかった。
現代アートを扱う女性ディレクターは裕福な暮らしを送りつつも、日々鬱屈した思いに悩まされていた。扱うアートにも情熱が枯渇し、今の夫は社用にかこつけて不倫中。そのためか不眠症にもなり、更に日々に倦怠感を抱える。そんな時学生時代に別れた元夫が、彼女との別れにインスピレーションを受けて書き上げた小説「夜の獣たち」が届く。彼女は作品を読みふけりながら、作中へ没頭すると同時に、二人の出会いから別れまでを思い返していた。小説から刺激を受け、過去のあやまちを思うことで彼女に変化が現れつつあるが、それは本当に変化なのか。
現在の彼女と、過去の彼女と元夫、そして小説の中の主人公が入れ代わり立ち代わりにストーリーを織りなす。しかしこの手法、自分は苦手。考察や感傷を抱いているうちに場面が違う内容になってしまうので、考えが追い付かない。特にこの作品では現在、過去そして小説とシーンが変わっていくのでやはり混乱する。それでも主役である女性アートディレクターは現在と過去、元夫は過去と小説内の主人公の投影として現れるのみなので、重なる部分が整理しやすく、まだ大丈夫。サスペンス的な展開を期待していたので小説を映像化してほしかったなと残念に感じた。
ほぼメインで出演するエイミー・アダムスの変身ぶりは見事。鬱屈した現在をいかにも濃い目の化粧でごまかしているといった焦燥感をにじませつつ、過去では自分の母への反抗からか自由を謳歌するような溌溂とした大学生の姿を見せたりと、様々なパーソナティを演じている。学生時代の青い瞳に輝きが見えた次のシーンでは、よどんで曇った死んだような眼を見せて演技の幅の広さに驚く。
その元夫で、小説内の主人公の投影にはジェイク・ジレンホール。この人もギなのかジなのか、いつまでたっても決着がつかないが、演技・存在感・悲壮感は劇中圧倒的なので、よくもまぁこんな人たちをキャスティングしてきたなとため息が出てしまう。全身毛にボリュームがあるのは欧米の方なのでご愛嬌。
自分の中で際立ったのが小説内で保安官補として出演しているマイケル・シャノン。肺がんを患い余命いくばくもないが、犯罪を憎むあまり超法規的な手段で最終結論に臨もうとする、暴走する正義が痛々しかった。苦しそうに咳をこじらせつつも燃えるような瞳に命を燃やし尽くそうとする執念を感じる。この人も、エイミー・アダムスも、ジェイク・ジレンホールも青い瞳なので、画面内余計に存在が際立つ。
アートがテーマにあるためなのか、所々アート的な作品や映像、演出が見てとれる。中でも訳わからんのがオープニングのかなり豊満な女性が素っ裸で踊り狂うイントロ。何を見せられているんだろうと非常に後悔した。そして印象に残ったのは、女性アートディレクターが購入したという「Revenge(復讐)」というアート。彼女自身それを購入していたことを忘れており、何やら隠喩めいたことを示唆している様子。それがラストにつながるのかと問われると違う気もするが、作中の女性アートディレクターと元夫の関係に何かを投げかけているのかなと思われる。
小説の中では人は殺され、復讐が行われるが、二人の過去と現在では事件は起きず、特に現在では元夫は一切現れないのが不気味。彼は何を想い彼女の小説を送り付けたんだろうと思いを巡らす。ラストが答えなのかもしれないが、それも理解しづらいのでかなり難解な作品であると感じる。ただこれを観終えて、もうジェイク・ジレンホール出演の作品は観ないことに決めた。存在と演技が圧倒的すぎるので、どんな作品でも高評価につながってしまうから。

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