アンダーカヴァー 潜入捜査官の掟

アンダーカヴァー 潜入捜査官の掟(イタリア:2021年)
監督:フェデリコ・アロット
脚本:フェデリコ・アロット
出演:モハメド・ゾウイ
  :ステラ・エギット
  :アレクサンドロス・メメタジ
  :ジアンルカ・メロリー
  :ヴァレンティナ・チェルヴィ
 
テロ組織に潜入した男の緊張と苦悩を軸に、警察組織内の対立、非情なテロ組織の掟を描いたイタリア発のアクション映画。実際の潜入捜査官への取材をもとに描いておりなるほどと思わされるが、ところどころ腑に落ちない点があり、そこは映画ばえを意識したのかなと思わされたのが残念なポイント。反面女性キャラクターの存在感があり、さすがイタリア女と謎の納得をしている。
中東で活躍したテロの戦士がイタリアに上陸。しかし彼の正体はイタリア警察の潜入捜査官。早速テロ組織とコンタクトを取り、来るテロに備えて場末のホテルに宿をとって市場で働き始める。中東で過酷な体験をした彼は発作的に右手が硬直したり、ベッドで眠らず床で眠ったりと心的外傷を抱えていた。最初の行動は現金強奪だったが、若手がミスを犯して射殺されてしまう。男は警察の上司にイタリアに帰っているというメッセージを送るためイツモ持ち歩いているライターを死体に残す。コンタクトをとってきた女上司に追い詰められている精神状態を訴える。女上司はこれを最後の任務として、テロ組織への潜入捜査を命じる。男は最後の潜入捜査に赴く。
最初の主人公の男がイタリアへ戻ってくるシーンでの潜入する手段がおもしろい。スマホを受け取り指令を聞き、小さな貨物船で密航。髪と髭を切りそろえて別人になる。決して派手なシーンではないがこれから危険な場所へ行く緊張感がある。偽造パスポートと現金を受け取り、すべての情報を聞き取ったスマホを海に投げ捨て足がつかないようにして、上陸すると青果店へ。合言葉で組織とコンタクトを取り、市場の魚売り場に紛れ込む。事実はもっと淡々としたものだろうが、こういう静かな緊張感があるシーンは物語が盛り上がる。
潜入捜査官の男の悲しいひりつきが描かれているのが印象的。華やスター性のある役者ではなく、欧州作品では珍しい中東系の役者が演じている。明日をも知れない身の上に絶えず緊張感を張り詰めて、まともな暮らしができなくなってしまっている辛さがよく表れていた。泊まっているホテルではベッドで眠ることができず床に寝転がり、机の上は鉛筆とレモンをきれいに整えて置いている。食事はキノコのピザとレモンを入れた炭酸水しか口にせず、ホテルの女性従業員に呆れられる始末。以前聞いた話で抑圧的な生活をつづけた人間は神経質的に整理整頓にこだわったり、同じ生活ルーティンを繰り返すらしい。それを如実に感じることができた。しかし内面を描く反面肝心のアクションは少なめかつ地味で、本当に取材が活かされているのかと思うほどリアリティ色が感じられなかった。潜入捜査で情報を送るシーンも少ないので、ヒリつくような焦燥感もない。今一つ主役からインテリジェンスやアクション性を感じられない。ホテル従業員の女性から簡単に言い寄られているのもどうかと思う。しかもエエ仲になるし。うらやま…、いやテロリストとしてけしからん。
暗めの雰囲気の映像で市井に紛れるテロリストっていう感を表現していてよいのだが、出てくる場所はイタリアの田舎っぽい所ばかりで、テロの脅威を感じなかった。カーチェイスもあるが街中は一瞬で、あとは郊外ばかり。テロリストのヒリつく銃撃戦は序盤の現金強奪シーンで少々ある程度で、テロリストたちは淡々と警察に射殺されてしまう。こういうのはハリウッドやボリウッドでは見られないあっさりテイスト。潜入捜査の緊張感を描いていただけに、最後は弾ける銃撃戦でスカッとした感だがなぁ。
出演する女性たちが非常に魅力的。主人公といい仲になるホテル従業員はお団子ヘアーが可愛らしく、髪を下すとフレッシュな魅力がある。警察の上司は金髪の熟女だが、髪型、衣装、佇まいが非常に美しい。こういうのを見ると欧州の女優は自分を飾ることに長けているなと思い知らされる。
主人公の苦悩を静とするなら、アクションはその分弾ける動であってほしかった。多少リアリティを誇張しているようだが、それ以上に地味な映像になってしまっており緩急の差も弱い。潜入捜査員のギリギリ感を出すのであればもっと周囲を疑ったり、疑われたりのシーンがあればよかったのでは。最後にダムを眺めてへたり込んでいる二人の姿は静かな余韻が残った。ここで終わってたらよかったのに。

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