アリス・クリードの失踪
アリス・クリードの失踪(2011年:イギリス)
監督:J・ブレイクソン
出演:ジェマ・アータートン
:マーティン・コムストン
:エディ・マーサン
たった三人が繰り広げる密室サスペンス。中年の男と若い男の誘拐犯たちと誘拐された不良娘がそれぞれ繰り広げる駆け引き、愛憎、騙し合いが見物。
序盤、二人の男が誘拐に必要な物品、手段を揃えていくシーンがカッコいい。古びたバンを盗んでナンバープレートを付け替える。アジトのアパートを合板やフロアクッションで密室にする。ドアには3点錠を取り付ける厳重さ。拘束用のロープと手錠が並んだ最後列には銀色の拳銃が置いてあり、これからただならない犯行が行われるのを予想させる。決して許されるものではないが、こういう犯罪の準備をしている映像は観ていて胸が高鳴る。そして誘拐も鮮やかに済ませて、アパートに拉致してからこの映画が始まる。
誘拐犯二人はムショ仲間でこの誘拐を決行した。中年の男は誘拐に慣れており、犯罪のプロとして心構えや技術、姿勢を若い男に説く。若い男は犯罪に慣れていないのか食欲がなくなったり、アルコールで気を紛らわそうとしたりと落ち着かない。始めは師弟関係のように思えたが二人の間にも秘密があり、若い男には他にも落ち着かない理由がある。二人の表情や動きの対比が面白い。また関係性が作中を通じて変化し続けるのも面白い。
誘拐された不良娘は資産家の一人娘。素行がワル過ぎて父親から勘当されているようだが、犯人たちからすれば格好のターゲット。アジトに拉致されて素っ裸にひん剥かれて脅されるのは本当に悲痛。化粧も溶けてパンダのように泣きはらしたその表情は哀れだが、物語中盤からはふてぶてしさを発揮して、なかなか腹の座った行動をとるのが面白い。ジェマ・アータートンが不良娘を熱演。こんなの言ったら失礼だろうが、やや締まりのない全裸が非常にリアリティ感あり、妙になまめかしかった。でも気の強いあばずれ感は小気味よく、逆襲したときはやったれ、やったれと応援してしまった。
舞台は密室と化したアパート中心なので、お互いが疑心暗鬼になっていく。若い女とある関係の誘拐犯、それを相棒には知らせていない秘密、誘拐犯同士の間柄、この誘拐には裏があるのではないか?等々。それぞれに疑念を抱かせながら物語は進むため、集中して観ることができる。
監督のJ・ブレイクソンは新進気鋭の脚本家。この少ない登場人物を非常にうまく使ってストーリーを組み立てている。お互いの信頼や憎しみ、愛情などを押し出して、一筋縄ではいかない関係を見せている。どんどんすごい才能が出てきているなぁ、とため息が漏れる。
三人の役者とも演技力がしっかりしているので、興ざめすることはなかったが、最少の人数で演じているので設定が盛り過ぎているような気がする。その設定は必要なんだろうが、保守的になってしまった自分には思い入れができないところがあった。昨今の性的風潮には申し訳ないんだが…。
登場人物が三人で100分超の作品を廻すのはさすがに長すぎた気がする。しかし、ダレそうな気がしてくるとちょうど新しい展開が開けるので、続けて観ることができた。個人的には警察や家族との交渉のシーンがあればもっと緊張感が高まったと思う。90分程度の収めるとスッキリ見ることができたのではないか。
最初は完璧な計画だった。準備も周到。実行も上手くいき、監禁して身代金を引き出すことは成功している。が、ミスやそれを隠そうと取り繕い、お互いの疑心を抱かせ、結局誘拐は破綻。何かを成すには準備が必要だが、それ以上にお互いの信頼関係が必要と痛感させられる。
ラストはタイトル通りかもしれない。残った大金はどうなるのか想像させられる展開だった。
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